このレビューはネタバレを含みます
去年の末くらいから割と評判の本作を観てきましたよ。面白かったが、めちゃくちゃ良かったほどではない。セリフのない映画ながらもダレることなく観れたのは作りが達者だなぁとの印象です。あと、帰り道はセプテンバー絶対聴きたくなりますね。でも俺はジョン・サイクス聴いて帰ったけど(R.I.Pサイクス、俺は80年代よりも90年代のブルーマーダー〜ソロの方の好きだね)。
80年代ニューヨーク。孤独に生きているドッグは、ある晩通販番組を見て、友だちロボットを購入します。そしてドッグはロボットと友だちになり、楽しい時間を過ごします。ある日、海水浴に行ったドッグとロボットですが、海水に浸かったため、ロボットは錆びて動けなくなります。ドッグは八方手を尽くしてもロボットを持ち帰ることができず、2人は離れ離れになり、それぞれの思いが紡がれていく…という話。
本作は別離に伴う喪失を描いた作品でした。ドッグとロボットの蜜月は序盤のみで、すぐにロボットは錆びついて両者は別離します。それからはずっとドッグの心の痛みだったり、ロボットの空想だったりが描かれるという、割としんどい話でした。
ただ、そのしんどさは、重要な他者との別離を経験したことがある人ならば、ほとんどの人が共感できるのでは、と思える秀逸さでした。それは、ドッグとロボットという擬人的なキャラクター、そして性別を明確にしていないところがポイントだと思います。人によっては別れた恋人、人によっては関係が途切れた友人を重ねることができるのではないでしょうか。
別離・喪失の痛みシーンが本作の中核で、とにかく長い。この長さがリアルなんですよね。幸福だったことなどだいたい一瞬で、痛みを抱えて生きる方が長いもんです。物理的に長くなくとも、楽しいのはすぐ過ぎ去るし、辛いのはなかなか過ぎ去ってくれない。その長さがリアルでしたね。
ドッグの試行錯誤は何というか、孤独なヤツが苦しむ感じがリアルでした。ロボットを救出できないとわかって、新しい友だちを作るためにひとりでスキーの団体旅行みたいのに行くんですが、すげぇ感じ悪いアリクイにいじめられて怪我して帰るとか、すごくカッコいいダックと仲良くなるも、ダックはドッグをそんなに重視せず、さっさとヨーロッパに移住するとか、ドッグにぜんぜん長続きする他者が現れないのが世知辛い。しかも、結局ドッグは同じようにロボットを購入するのも切ないですね。対等な友人はついにできないという、陰キャの非モテはAIとオリエント工業の進化に期待するんだなHAHAHAみたいな、キツーいものを感じました。とはいえ、そんなしんどい季節をなんとか生き抜くドッグの姿には、グッと来ましたね。
動けなくなったロボットは、ただただ浜辺で寝そべり、夢を見たり空想したりするしかないです。しかし、そのような中でも鳥の一家との出会いは、ロボットにとって大きな、本質的な癒しになったと思います。
ロボットは鳥一家の中の、やや落ちこぼれの一羽と深く繋がります。この一羽を寝かしつけたり、飛ぶことのサポートをしたりしました。これは、ロボットにとって「自分は存在する価値がある」と感じられる体験だったのではないでしょうか。これは、ドッグ以外の存在に必要とされる体験だったわけです。なので、次の愛着対象であるラスカルにつながる大きな動きだったと感じました。
このように、ドッグもロボットも別離の痛みを抱えて、新しい愛着対象を見つけて、新たな現実を生きる姿はなかなかにグッと来ました。ドッグの場合、結局新しいパートナーも購入したロボットなんですが、海水に入れない、オイルを差す等、過去の体験をちゃんと生かしているのが、痛みを抱えて生きた証だな、と感じました。長く痛みを抱えて生きることは、新たな自分になるための通過儀礼なのかもしれません。
ドッグとロボットには権力勾配があります。買う-買われる関係だからです。さらに、別離後はドッグは動けるが、ロボットは動けない。そしてラストにドッグを見つけて、声を掛けたいけど掛けない選択をするのもロボット。この両者は、ロボットの方がよりシビアな運命を辿っていると言えるのではないでしょうか。
それは夢にも現れているような。ロボットが観る夢は、すべてドッグとの関係性が反映されていますが、ドッグの見る夢はスノーマンでした。スノーマンはロボットを投影しているかというと、ちょっとズレていると思います。スノーマンは、おそらくドッグの中にある自分を守ってくれるような理想的な大人のイメージに感じました。ドッグを渇望しているのはロボットで、ドッグはロボットほど相手を渇望していないと感じました。本質的には安心できる相手が欲しいわけで、ロボットでなくてもよい(できればロボットがいいんだけど)。
人間関係には、まぁ勾配ってできますよね。2人いればどちらかがイニシアチブを握るモンですし。その辺のリアリズムも投影されていたようにも感じました。この辺が気になって、本作には全乗りできませんでしたね。
あと、本作は『ドリーム』というだけあり、夢映画でもあります。夢と言っても『ナミビアの砂漠』みたいなガチ夢というよりも、もっと空想に近い、意識と無意識の中間みたいな夢が描かれている印象です。これも俺にとっては物足りなかった。オズの夢は面白かったけど。オーバーザレインボーが出てこない辺りは、そう簡単に虹の彼方へはいけないぜ、というビターさを感じました。意外と全体的にシビアさはあった映画だと思います。
ちなみに本作は、ちょうど地元であるK県県央に戻ったタイミングで隣町の映画館で観ました。なかなか味わい深いミニシアター?で、地元に戻るタイミングで、たまには行きたいですね。とはいえ、会員になるほど行くことは無理でしょうが。