ヨーク

アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家のヨークのレビュー・感想・評価

3.7
ずっと観たかった『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』ですが、やっと観ることができた。軒並み上映は終わていると思うが近所のミニシアターでやってくれたので何とかスクリーンで観ることができたので感謝ですね。ちなみに2Dで観ました。
まぁ特に文句もなく面白かったんだけど、あんまり胸を張って面白かったぜー! と言えないところもあって、それが何故かというとまぁ寝たんですね、かなりガッツリ。今年観た映画の中で3本の指に入るくらいには寝たんじゃないだろうか。時計で測ったわけではないから正確なところは分からないが、ランタイム93分の内半分近くは寝ていたんじゃないかな。
いやだって、本作は時折コーラスが入ったりするものの基本的にはクラシカルでゆったりとした環境音楽的なBGMをバックに第二次大戦後から現代のドイツに於ける最重要アーティストの一人であるアンゼルム・キーファーの作品をただ映していくだけなのである。ナレーションもたまに入るしアンゼルム・キーファー自身へのインタビューも要所要所ではあるのだがおそらく(寝てたからおそらく、ね)作品の大半はただ彼の作品を映しただけの映像である。
言い訳じゃないが、まぁそりゃ寝るよ! って感じですよ。スーパースヤスヤ映画ですね。だからあんまり大きな声で面白かったとは言えないのである。でも小さな声でなら面白かったよと言える映画ではありました。とりあえず俺が起きて観ていた部分は面白い映像が多かったのでそれは間違いない。
そのランタイム半分くらいしかない俺が観た面白かったものというのはですね、前提として俺はアンゼルム・キーファーという人のことをよく知らなかったんだけど、かなり聖書とか神話から材を取った作品を作っている人だったというのが意外でしたね。イメージではなんかもっと難解な現代アートの人なのかなと思ってたけど、題材が聖書とか神話なのでドイツに於けるそれらの要素がどう生活レベルの中に染みついているのかという実感を伴った深い部分までは分からないが、生まれた国も世代も全然違う俺でも一般的な知識として聖書や神話の内容を知ってはいるのでそこはかなり取っつきやすく観ることができました。
もちろん、それらの聖書や神話の要素というのは第二次世界大戦に於けるナチスドイツの所業を経てアンゼルム・キーファーの中で昇華されたものとして表現されているのでそこが本作の、というかアンゼルム作品の一番の見どころではあるんだろうな。そのドイツの(立場的には日本も近いところはあろう)負の歴史というものを前面に出して神話的で壮大なスケールで展開される作品群の姿は大きなスクリーンで観ると中々に圧巻でした。壮大なスケールと書いたが、それは何も作品に込められたテーマとかだけの問題ではなく、物理的にもクソデカい作品ばかりでそれがまた観ていて楽しかったですね。いやもう本作の舞台のほとんど(寝てたから多分だが…)はアンゼルム自身のアトリエ内なのだが、これもうアトリエっていうか倉庫とか工場だろ? と思ってしまうほどに大きな空間に置かれた作品群が迫ってくるのでそれだけでもすごい迫力でしたよ。
個人的には起きてちゃんと観ていた中ではラストの翼を目指す蛇の像、とその前に映された壊れた階段が連続で描かれたのが良かったですね。翼を目指して情報へと昇っていこうとする蛇などめちゃくちゃ聖書的なモチーフだけど、それとは逆に特に聖書や神話といった要素のなさそうな今にも崩れ落ちそうな階段を映すというのはある種の物語が持つ象徴性と共に身も蓋もない現実でしかなく、その両者を並べることによってすごくバランスが良くなってるなと思ったんですよね。そこにあるのはアンゼルム・キーファーと同世代のヴィム・ヴェンダースなりにアンゼルム作品の中に物語性と現実性とのマッシュアップを感じ取った部分なのかもしれないな、と思いました。
まぁほとんど寝てたからそれくらいしか言えることはないのだけれど、観てよかった映画ではありましたよ。もし仮にアンゼルム展とか日本でやっても(来年京都でやるらしいが)デカすぎて持って来れない作品多数だろうから、本作でしか見られないものも結構あるはずなのでそういう意味でも貴重な映画です。面白かった。
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