masato

青春18×2 君へと続く道のmasatoのレビュー・感想・評価

青春18×2 君へと続く道(2024年製作の映画)
4.0
藤井道人監督は、職人的なうまさを備えてきた感がある。正直、もう還暦を過ぎて見るにはきつい映画だなあ、と思いつつ席に着いたのだけれど、とにかくうまい。脚本もよくできているし,演出の間合いがとてもいい。

原作を読んでいないので、岩井俊二の『ラブレター』へのオマージュ的な部分が藤井監督によるものなのかどうかはわからないけれど、もう一度、『ラブレター』を見てみようと思われるほどにうまい使い方擬されていた。

ネタバレになると困るのだが、始まって早々の場面で、主人公のジミーが旅先の列車の中で学生の旅人と出会う。なんだか、賑やかで、風情もなにもあったもんじゃないおとこのこなのだが、こいつが登場した途端に「鬱陶しいやつだなあ」と僕は思う。けれど、台湾人のジミーはこの子の相手をしてやる。すっかり懐かれてしまうジミーだが、この子のおかげで、とてもいい景色を見る瞬間が訪れる。

この場面を見て、なんだか泣けてしまった。そう言えば,僕はこういうやつと出会わないように頑張ってきたなあ、とおもったのだった。そんなふうに思い始めると、僕の人生はやらなかったこと、避けてきたことの多い人生だったなあ、と。

旅に出ればよかった。出会いを素直に受け入れればよかった。言うことを聞いていればよかった。

そんな、やらなかったことばかりが浮かんできて、後半ずっと泣いていた。

普段は「映画にカタルシスなんかいるかよ」と毒づいている僕だが、カタルシスだらけのこんな映画も、実は嫌いではない。
masato

masato