回想シーンでご飯3杯いける

あんのことの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

あんのこと(2023年製作の映画)
3.6
幼い頃から母親に暴力を振るわれ、売春を強いられる、過酷な生活を送ってきた21歳の女性。彼女が覚せい剤使用容疑で取り調べを受ける中で、ボランティアで更生施設も運営する刑事と出会い、人生の新たなスタートを切る様子を描いている。

主人公のあんは小学校も卒業していない為、漢字を読めないし、言葉遣いも荒いというより、どこか幼い感じがする。その辺りのニュアンスを含めた河合優美の演技が素晴らしい。彼女が刑事の協力を得ながら少しずつ心を開き、人生の目標を見出していく。基本的には辛い描写が続く作品であるが、所々に散りばめられた細やかなドラマに、観ているこちらも一喜一憂してしまうのである。

しかし、本作は冒頭のテロップで語られている通り、実話を基にした映画なのである。そう考えた時に、ドキュメンタリータッチの演出でありながら、佐藤二郎の極端にコミカルな演技が入ったり、露悪的に描写される母親であったり、社会派作品としての立ち位置に危うさを感じてしまう部分がいくつか見られる。

映画なのだから演出が加わること自体は構わないし、それが功を奏する場合もある。しかし本作のバランスは、誤解や錯覚を生んでしまうように思え、そこが少し残念だった。