けい

すべて、至るところにあるのけいのネタバレレビュー・内容・結末

すべて、至るところにある(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

前作『ディス・マジック・モーメント』では、全国のミニシアターを監督自身が巡り、現地の人と対話をする構成のドキュメンタリー作品で、“ ミニシアターを旅する感覚 ” が味わえた。どこにも属さず、彷徨う “ シネマドリフター(映画流れ者)” を自称するリム・カーワイ監督の生み出した “ バルカン半島3部作 ” の完結編という立ち位置の本作でもそんな映画体験ができた。

未知の場所をひとりで訪ね、その場所の人々と出会い、その土地の瞬間を切り取っていく制作スタイルによって生まれたという前2作『どこでもない、ここしかない』『いつか、どこかで』を観ていなくても問題なく楽しめる親切なつくり。アデラ・ソー演じる金髪美女・エヴァを主役にした映画を撮った行方不明の監督・ジェイをエヴァが探す旅に出るのだが、前2作が作中のキーアイテムになり、過去の出演者たちも物語に絡みながら進んでいくのが面白い。

過去のジェイと足取りを辿るエヴァが同時に同じ場所に存在する不思議なシーンが数回出てくるのが印象的。また、エヴァが旅の途中で立ち寄ったカフェで鳥かごを見つけてかごを開けるがなかなか出ようとしないインコの姿は、まるでコロナによって外出が恐怖になった人々のよう。そんな登場人物の行動の意味を想像しながら楽しめるのも面白い。

イン・ジアン演じる現地の黒髪美女は、コロナによって失ったと思われる恋人の面影をジェイに重ねる。そしてコロナによって映画監督の仕事を失ったジェイはそんな黒髪美女とお互いに寂しさを埋めるように一緒に暮らすようになっていく。この二人の関係が後に明らかになるジェイの行方へと繋がっていく。

行方不明の人物を探すという大きな軸の物語はビクトル・エリセ監督の『瞳をとじて』と同様だが、バルカン半島を巡りながらモニュメントを発見しては撮影していくという偶然性のあるリム・カーワイ監督のスタイルによって “ リアルな ” ロードムービーに仕上がっている。それはガイドブックに載っていない素敵な場所を発見したときのワクワクに似ている。意欲的で独自性の強い作品を撮り続けるリム・カーワイ監督に今後も注目していきたい。
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