辻まことの文章のファンだったので、ダダイスト辻潤とか、伊藤野枝とかには興味をもっていた。本編で幼児期しか出てこない辻まことは「人を取り除けてなお価値のあるものは、作品を取り除けてなおあとに価値の残る人間によってつくられるような気がする」という言葉を残している。
日蔭茶屋の事件も地元で有名だし、甘粕事件も学校で習った覚えがある。現代すでに忘れ去られようとしている感があったが、こうして映画化してくれたことはありがたく思える。リアリティーとして衝撃的ではなかったけれど、それをもとにフィクションつくるのではなく、出来事を追っかける感じだったので、まあ、これで十分かと思える。事実として、十二分に面白く特異といえるお話しなので。
伊藤野枝も大杉栄も辻潤も甘粕も、おそらくそれぞれに現代にはあまり類を見ない個性の持ち主だったと思われる。冒頭にひいた文のように、それは人間的な魅力でもあったはずだ。こういう時代にこういう日本人がいたことを記憶する意味はあると思う。そうしたところが、表現としてもっとあってほしかった点だ。
