単行本は2020年刊行。これは文庫で読んだ。久し振りに村山由佳の小説を読もうと思ったのは、本作の主人公が伊藤野枝だからだ。これはなかなかの力作だった(が、僕は初期の青春小説の方が好きではあるけれども……)
当たり前だが、映画版も同じく伊藤野枝(吉高由里子)が主人公。彼女を中心に、大杉栄(永山瑛太)、平塚らいてう(松下奈緒)、辻潤(稲垣吾郎)、甘粕正彦(音尾琢真)らが登場して物語が紡がれていく。
タイトルに『劇場版』とある通り、本作は2022年9月にNHK BSプレミアムで放映された50分枠×全3話の編集版であるようだ。といって、それほど大幅にカットが施されているわけではないとみえる。BSの視聴環境が無い上、殆ど視た事も無いのでわからないのだが、CMが無いとして、20分ちょっと切っているくらいだろう。ダイジェストという感触では無かった。
ただ、浅い。致命的に浅い。
これは、カット云々が問題なのでは無く、テレビドラマという形式が枷として機能してしまったのだと思う。
関東大震災の描写にしても、それに伴う朝鮮人弾圧&虐殺の描写にしても、甘粕事件の描写にしても、いずれもが浅い。昨年の収穫にして力作『福田村事件』とどうしても比べてしまう。
いや、殊更に陰惨で残酷な作品を求めているわけでは無い。<盛り込んでいるのに浅い>というのが問題だと思うのだ。
また、更なる問題として、製作陣が目指したと思しき<女性解放運動家としての伊藤野枝の一代記>としても、著しく求心力に欠くという点も気になった。
伊藤野枝が目の当たりにし、体験もした、世間に蔓延る理不尽さや残酷さ、無情さといったものを、本作は表面をなぞる程度にしか描けていない。そこが作品全体の弱さに繋がっており、引いては人間ドラマをしての強度を持ち得なかった要因であると思う。
<素材は良いのだが、料理人の腕が冴えなかった……>
そう僕には感じられた。
やや残念な出来。