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笑いのカイブツのCINEMASAのレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
2.7
 NHKのテレビ番組『着信御礼! ケータイ大喜利』で<レジェンド>の称号を獲得し、ラジオ番組等のネタ投稿でも名を馳せ、<伝説のハガキ職人>と呼ばれたツチヤタカユキの同名小説(文春文庫:刊)を映画化した、一風変わった青春ドラマ。

【笑いの才能を認められ、運良くプロの構成作家への道を歩み出すも、人間関係が不得手でトラブルを引き起こしまくり、その度に挫折を繰り返すツチヤタカユキの姿を描く】というスジ。

 監督&共同脚本は『サディスティック・ミカバンド』、『俺たちに明日はないッス』以来、久々の劇場用長編映画を手掛けた滝本憲吾。他に『14の夜』、『100円の恋』、『喜劇 愛妻日記』の足立紳らも脚本に参加している。

 出演は、主演に岡山天音。共演に、片岡礼子、松本穂香、前原滉、板橋駿谷、前田旺志郎、藤井隆(アーカイヴ)、木村祐一(アーカイヴ)、菅田将暉、仲野太賀ら。

 大阪で手痛い失態&狂態を繰り広げ、業界で疎まれてしまったツチヤに東京行きの手を差し伸べ、上京後も彼に目を掛け続けるベーコンズという漫才コンビの突っ込み役=西寺(仲野太賀)のモデルは、恐らくオードリーの若林正恭だと思われる。

 いやあ、コレねえ。なんと言うか……

 観ていて飽きはしなかったのだけれど、主人公のツチヤタカユキ(岡山天音)に全く共感出来なくて…… まあ、そういうキャラクターなのだけれどもね。

 西寺に「人間関係不得意」とだけLINEして、大阪に逃げ戻るツチヤだが、そこには彼が思いを寄せているミカコ(松本穂香)や、ピンクというチンピラ(菅田将暉)が居て、決して彼を邪険にはしない。けれど、ツチヤは酒に溺れつつ、唯我独尊的言動を繰り返す。協調性というものが無い。と、これだけなら、<コミュニケーションが超下手な青年>なのだが、他人のネタを盗むというタブーも平気で破ってしまうというあたりが、僕には受け入れ難かった。

 「アルバイト中は、お笑いのネタ作りをしたり、テレビ放送をイヤホンで聴いたりしたらアカンやろ!」と思うし、接客に全く向いていないのに<1日ホスト入店>を繰り返し、顧客を無視して、喋らず酒を飲みまくり、挙句に泥酔して追い出され、危ないスジの人物が経営する遊興ビルにも迷惑行為を働く。その度に、ツチヤは口汚い悪態をつきまくるが、そこで所払い的に数千円を渡されて「この金でマンガ喫茶、行け」と言われると、「……ありがとうございますー……」的な。うーん……

 この病的な(というか病気の域であろう。部屋の壁に「ゴンゴン!」と頭を叩きつけるシーンで確信した。あれ、病気なのよ)な屈折&卑屈振りは観ていてしんどかった。

 ただ、ツチヤになんとか寄り添おうとする人々の想い(それが空回りするのが、これまた辛いのだけれど)は胸に響いた。特に、チンピラのピンクを演じた菅田将暉は毎度ながらの巧演で舌を巻かされた。まあ、その演技の貌は『そこのみにて光り輝く』や『セトウツミ』に通じるものだから、「新境地!」という訳では無いのだけれど、それでも部類の巧さだと唸らされたものである。

 それにしても、お笑いファンのマイミクさんの日記を読むと<ハガキ職人や構成作家志望の若者>というのは、実際にこういう<類型的とも思える人>が多いらしい。そうなのか…… 

 うーん、確かに、少なくとも、本作を観る限り、「ツチヤタカユキってヤバいよねえ……」と思えてしまう。そこが気になって、観ていてどうにも居心地が悪かったというのが正直なところだ。

 ただ、繰り返すけれど、不思議と「あー、観るの止めたいー!」とは思わなかったのである。そのため、「不思議な作品だなあ~」って。

 と、最後に記しておくが、この作品、ツチヤタカユキの人物像も含めて、原作共に<フィクション>なのだそうであ~る。な~るほど♪
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