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枯れ葉のCINEMASAのネタバレレビュー・内容・結末

枯れ葉(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

 『希望のかなた』(2017)のプロモーション中に、突然に監督引退発言をしたフィンランドの名匠アキ・カウリスマキ監督が6年振りに還って来た! 実に喜ばしい!!


【フィンランドの首都であるヘルシンキで厳しい暮らしを送る孤独な女性アンサ(アルマ・ポウスティ)。スーパーマーケットで働いていた彼女だったが、ある日、廃棄食品の処理の問題をきっかけに回顧されてしまう。一方、肉体労働者のホラッパ( ヤンネ・フーティアイネン)は、酒浸りの日々を送っていた。そんな2人がカラオケバーで知り合う。お互いの名前も知らないまま、映画館でのデートを経て恋に落ちるのだったが……】というスジ。


 2023年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した作品。今年の米アカデミー賞では、国際長編映画賞フィンランド代表としてエントリーされた。最終候補5枠には残れなかったが、全米批評家協会賞では外国語映画賞を受賞した作品。

 アキ・カウリスマキは、いつも通りに監督と脚本と編集とプロデュースを兼任している。撮影監督は常連のティモ・サルミネンが担当。

 これは秀作だ!!

 実にアキ・カウリスマキらしい作品だ。淡々としていて寡黙ながらひしひしと伝わって来るものがある。胸の中で作品がどんどんと膨らんでいく。

 弟のミカ・カウリスマキと共にヘルシンキで映画館を経営しているアキ・カウリスマキの映画愛も随所で炸裂していて堪えられない。アンサとフラッパが初デートで観る映画がジム・ジャームッシュが獲ったゾンビ・コメディ『デッド・ドント・ダイ』であるところで僕は大笑いをした。その後、映画館前が数シーンで移されるが、そこに貼られているポスターの変容も興味深い。『気狂いピエロ』、『恐竜100万年』、『シンドラーのリスト』などなど、などなど。劇中、ロベール・ブレッソンの名も登場する。そのシネフィル振りが、あざとくなく盛り込まれていて好ましい。

 また、本作は優れた音楽映画でもある。フィンランドの現代音楽シーンを代表するマウステテュトットから、クラシックの名曲であるチャイコフスキーの『交響曲第6番ロ短調「悲愴」』、懐メロ『秋のナナカマドの木の下で』に、古典と言って良いジャック・プレヴェール作詞&ジョセフ・コズマ作曲によるシャンソンの名曲『枯葉』(←かつて、イヴ・モンタンも歌っていましたね)、日本からは、なんと『竹田の子守歌』が採用! これらの楽曲が織りなす音楽映画としての在り方は、やはりこれまでのアキ・カウリスマキ作品に通じる。特に<『レニングラード・カウボーイズ』シリーズ2作品>にその傾向は顕著であった。そのあたりも変わっていなくて嬉しかった。

 加えて、本作は、これまでのアキ・カウリスマキ監督のフィルモグラフィの中でも、一・二を争ってメロウ。その情緒・感情に溢れたストーリーを、台詞に頼り切らずに81分という短尺に纏め上げているあたり、やはり只者ではない。凝縮された濃密な81分だ。

 終盤で、悲壮な展開が待ち受けているけれど、アキ・カウリスマキの作品は、いつもそうだからもう書いてしまう。ラストはハッピー・エンドだ。決して大仰ではなく、嘘にも見えない、等身大の幸福な着地を決めてくれるのが嬉しい。いつも通りのアキ・カウリスマキ映画で、やはりじんわりと心に染み入ってきた。彼は健在だ!!

 感動した。これはオススメの作品だ。

 まだまだ上映中なので、ご興味がおありの方は、是非劇場で御覧いただきたい!!
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