藻尾井逞育

陰陽師0の藻尾井逞育のレビュー・感想・評価

陰陽師0(2024年製作の映画)
4.0
「人は見たい物だけを見て、聞きたい声だけを聞く」
「飲んでいても、飲んで無くても変わらん。起こることは起こるし、起こらないことは起こらない」
「お前、一生友だちなんてできないよ」
「目をそらすな。事実だけを見るんじゃなかったのか」
「安倍益材の子、安倍晴明が命ず。この呪のごと絶ちたまえ!」

都を呪いから守る陰陽寮が政治の核だった平安時代、安倍晴明は呪術の天才と呼ばれていた。陰陽師に興味もない晴明だったが、ある日、源博雅に皇族の子女を襲う怪異の解決を頼まれる。貴族と衝突しながらも真相を探っていく一方で、都を巻きこむ陰謀が動きだす。

安倍晴明が陰陽師になる前のプリクエルです。どうしても避けられない野村萬斎さんヴァージョンの陰陽師との比較。彼の演じた凛として浮世離れした安倍晴明のイメージがあまりにも鮮明でしたので仕方ないかもしれません。でも山﨑賢人くんの晴明もなかなか負けてはいないと思いました。
どちらの晴明も初登場のシーンで小動物(蝶と蛙)に呪詛をかけますが、野村晴明では印を結んだその所作から、見る者を式神とか理解を超えた不思議な世界へと有無を言わせず連れていってくれます。かたや山﨑晴明では、種明かしをする形で科学的・合理的アプローチを試みます。妖しいと思える事象も科学的に判断できるものは全て切り捨て、それでも最後まで残ったものが人の意識に作用する呪であると説明します。合理的に切り捨てた後、そこから一気にアクションに舵を切るところが山﨑晴明の真骨頂でしょう。
染谷将太さん扮する相棒の源博雅がいとも簡単に呪にかかってしまうので、晴明は「人は見たいものだけを見るので、真実は人の数だけある」と懇々と説明しています。これって「真実はいつも一つ」というコナン君の決め台詞とは違ってますよね⁈そんな晴明もやがて博雅の才能を認めるようになり、最強のタッグを組んでいくのは、ちょうどホームズとワトソンの関係にも似ています。
クライマックスでの呪術対戦も、監督のご主人率いる白組が手がけ、ゴジラならぬキングギドラのようで迫力があり圧倒されます。その他、意識下で徽子女王と博雅が巡り会う場面の花いっぱいのCG、かと思えば二人の髪飾りと烏帽子を飾る花、といった実にこと細かく画面が映えるシーンが続きます。
それなのに、なぜか見終わった後何か物足りなく感じてしまいました。一体なぜなんだろうと考えてみると、衣装が画面に映えるかわりに少々薄っぺらく感じてしまったからのようです。でもこれって、私が単に平安王朝絵巻のような重厚な衣装を見たいという呪に、知らないうちに陥っていたからかもしれません⁈