藻尾井逞育

藍色夏恋の藻尾井逞育のレビュー・感想・評価

藍色夏恋(2002年製作の映画)
4.5
「さそり座O型、水泳部とギタークラブ所属。イケてるだろ」
「俺はおまえの味方だぞ、どんな時も。笑うなよ」
「夏も終わりなのにまだ何もしてない。ただ走り回ってただけで、何もしてない。一つも試合に勝てなかったしな。でも何かは残ってるさ。そうして少しずつ大人になる」「どこかで聞いたセリフ⁈」

17歳の女子高生モンは、親友のユエチャンに頼まれ、ユエチャンが思いを寄せている水泳部のチャンにラブレターを渡す。しかし、チャンはモンに好意を寄せていた。チャンからアプローチを受けたモンは、親友を気遣って最初は相手にしないようにしていたが、チャンのまっすぐな姿勢に次第に心を開いていく。しかし、モンはある秘密を抱えていた。

軽快なピアノの旋律にのせて綴られる、高校生の切ない三角関係。主演を務めるチェン・ポーリンさん、グイ・ルンメイさんの映画デビュー作でもあり、二人の初々しい演技が映画に懐かしさと爽やかな雰囲気を与えています。
初見では、グイ・ルンメイさんの勝ち気な瞳に私はすっかり魅了されてしまいました。胸に秘めた思いに悩む彼女。南国の緑あふれる街並みを二人自転車で風を切って進んでいく姿を見て、LGBTQなど誰もが受け入れられる社会が訪れることが望まれました。
今回はチェン・ポーリンさんのチャンくんにも注目して見直してみました。好きな子を前にして何を言ったらいいのか分からず、それでも相手の気をひこうとして突拍子もない自己紹介をしてみたり。相手にちょっとでも近づこうとして、なけなしのお小遣いで彼女の母親の屋台に立ち寄ったり。直接的には全く同じ経験はしていなくても、誰もが懐かしく思うあの自分でも自分がよくわからない頃の気持ちがよく表されていました。それは青い門をくぐる前、恋愛に駆け引きを持ち込む大人の世界へと足を踏み入れる前の、不器用だけど自分に対してまっすぐでいた頃の気持ちですよね。そのどうしようもない気持ちのため、相手のいつまでたっても自分によそよそしい態度に苛立ちさえ覚えてしまうのでしょうね。
でもチャンくん、相手のモンさんも自分自身の気持ちがよくわかっていないことに気づいてあげられます。モン自身、恋愛に対して、それどころかそれが恋愛なのかすら分からず思い悩んでいます。そんな彼女の気持ちを大切にして、彼女の全てを受け入れて待ってあげる。チャンくん、なんていい子なんだ!男の私でも惚れちゃいます⁈
あともう一人の主要人物、ユエチャンさん。相手への思いを断ち切るため、願いを込めてノートに書いていた相手の名前が◯◯◯◯に変わったところ、初見ではあまりに唐突だったので笑ってしまいました。今回見直してみると、その名前がクラスメイトの別の子ではなく決して手の届かない人の名前であることで、本当に彼への思いを断ち切ろうとしていることがわかり胸が締め付けられました。
いい映画って、見るたびに色々な発見があり、そのどれもがその時々で正解なんですね。傑作です。