ユースケ

マイノリティ・リポートのユースケのネタバレレビュー・内容・結末

マイノリティ・リポート(2002年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

全ての行動は網膜スキャンによって監視され、全ての犯罪は3人の予知能力保持者で構成された犯罪予知システム・プリコグによって犯す前に罰せられる完全な管理社会と化した2054年のワシントンD.C.。息子を誘拐されて以来、犯罪撲滅に全てを捧げてきた犯罪予防局の主任刑事ジョン・アンダートン(トム・クルーズ)は信じられない犯罪予知を受ける。それは、36時間後に見知らぬ男を撃ち殺す自分の姿だった…

ポール・ヴァーホーヴェン監督の【トータル・リコール】の続編として、彼の相棒のヤン・デ・ボンが監督するはずだったフィリップ・K・ディックの短編小説【少数報告(マイノリティ・リポート)】を、監督スティーブン・スピルバーグ×主演トム・クルーズのコンビが映像化した本作は、決定論、因果律、パラドックスなど、SFファンにはたまらない小難しい要素に、スピルバーグ印のシュールな笑いと悪趣味なグロ描写、そして、アルフレッド・ヒッチコック監督の【ダイヤルMを廻せ!】、【北北西に進路を取れ】、ウィリアム・フリードキン監督の【フレンチ・コネクション】、イングマール・ベルイマン監督の【仮面/ペルソナ】、【第七の封印】など、数々の映画へのオマージュを詰め込んでエンターテインメントに昇華したわかる人にはわかる一本。

みどころは、スピルバーグ演出に体を張った演技で応えるトム・クルーズ。
ホロ・スクリーンに映し出された犯罪予知のビジョンを指揮者のように操作したり、衝撃波を撃ち出すソニックガンをクルクル回してリロードしたり、未来っぽいガジェットを巧みに操るかっこいいトムは最高ですが、ヨガ教室にヨガのポーズで突撃したり、ジェットパックの炎でハンバーグを調理したり、マユゲ星人コリン・ファレルと【インディ・ジョーンズ】シリーズみたいな大袈裟な殴り合いを披露した上でCMみたいにレクサスで走り去ったり、目が見えない状態で冷蔵庫の中から腐ったサンドイッチと腐った牛乳を見事にチョイスしたり、ジップロックに入れた目玉を落としておむすびころりんしたり、真面目な顔で笑いを取りに来るトムはもっと最高。
【宇宙戦争】のピーナッツバターを塗った食パンを窓にぶん投げるシーンの布石となるスナック菓子の箱をぶん投げるシーンは要チェックです。

犯罪を犯す前に罰する予防拘禁を容認する犯罪予知システムを守って終わる原作をファシズムの肯定とし、犯罪予知システムを破壊してファシズムを否定するラストを選んだ本作は、犯罪予防局局長ラマー・バージェス(マックス・フォン・シドー)の名前や眼球移植手術アイ・オープナーから自由意志をテーマにしたスタンリー・キューブリック監督の【時計じかけのオレンジ】(原作者アンソニー・バージェス、クリップでまぶたを見開いた状態に固定し、残虐な映像を鑑賞させ続けるルドヴィコ療法)を連想させ、犯罪はないが自由もない世界と犯罪はあるが自由もある世界を観客に比較させ、運命VS自由意思をテーマにした趣深い作品です。そう考えるとプリコグのひとりアガサが何度も言う「未来は選べる」の言葉の重要性がわかり、嘔吐棒(シック・スティック)で吹き出すゲロのように涙が吹き出す事でしょう。

最後に、犯罪予知システム・プリコグから解放された3人の予知能力保持者アガサ、アーサー、ダシール(ミステリー作家のアガサ・クリスティ、アーサー・コナン・ドイル、ダシール・ハメットからの引用)が、人生で初めて先の読めない面白さにワクワクしながら本を読み漁るラストシーンは気が利いている上に、当初の企画であったフランソワ・トリュフォー監督の【華氏451】のリメイクの影響を感じさせる秀逸なシーンだと思いました。

※イングマール・ベルイマン監督作品からの影響とラストシーンの解釈については映画評論家・町山智浩先生の解説を参考にさせて頂きました。