arch

ハンテッド 狩られる夜のarchのレビュー・感想・評価

ハンテッド 狩られる夜(2023年製作の映画)
4.0
浮気相手との逢瀬の後、不妊治療に向かう道中で寄ったガソリンスタンドで主人公アリスは狙撃される。
誰が?なんの目的で?なぜ私が?混乱の中でその"敵対者"との対決は始まる。

この映画の圧倒的な理不尽さと全くの因縁や必然の存在しない両者の対立というのが面白い所。全くの関係ない両者を対立させるのは、ワクチン会社社員vs陰謀論者であるかもしれないし、あるいは男性vs女性、貧富の差、幸福度の差だといえるかもしれない。互いに顔をよく知らず、何者かも表面的な情報でしか知ると無い関係における「対立」。それはSNSのメタファーとも取れるし、アメリカを今も蝕む「分断」のそのものだと言えるだろう。
本作はそれ故に犯人の顔が見えない、というか「見せない」を徹底させる。正直ブルーカラーの白人、もっと言えばミリシアなのは明らかなのだが、その匿名性を武器として一方的に、攻撃するそのアリスとの位置関係に意味がある為、顔を見せないことによって、この映画に現代に語るべき話としてのレイヤーが重なる。
そう考えると、こいつは何者なんだ?、どこまで仕組まれていて、彼女に何を持って恨みを持っているんだ?という観客の心理と陰謀論における「何でも自分に都合よく解釈する」短絡的なロジックとの符号を皮肉に指摘されている気さえする。


本作はいわゆる空間や位置関係を観客に手際よく伝えて、その場の臨場感を味合わせる作品としてはそこまで上手くいっていない。結局どの方角からの狙撃から身を守ればいいのか、道路との距離、車の位置、射程範囲はどこか?を最低限しか提示できていないからだ。それ故に狙撃手視点での主観ショットが必要になっている。また時間的な制約も分かりづらい。最後から分かるように、「夜が開けるまで」を想定していることは薄々感じつつも、朝を迎えることが両者にとってメリットなのかデメリットなのかが不鮮明である為、ダラダラ篭城戦しても良くね?兵糧いっぱいあるし、なんて発想を許すのである。(これは俺だけ?)
彼が看板を降りてきて、攻め込むための動機も薄いし、タイムリミットある方が良かったんじゃねえかな…

他にも主人公の行動の順序にも違和感がある。特に外の車に乗り込もうとするのは明らかに無謀だろ。車内のスマホと頭部を射抜かれてたの見てたやん!その時間あったら錠前切ろうよ…

ただそれを許せるほどに「傍観者」故のサスペンスが上手く描かれている。特に老夫婦の下りは凄まじい。狙撃手とアリスの「傍観者」という属性をフルに利用したシーンであり、その射程は我々観客にすら及ぶ…かも?
無力感、自責の念、それらによって更に加速する絶望的な状況のストレス。そこが一番よくできてたところだろう。


ラストの大人が死んで、子供が走り出すラストは『ザミッション』やらを彷彿とさせる子連れ狼風エンディングで好き。良作でした。
arch

arch