(2025.42)
幕末時代、会津藩士の高松(山口馬木也)は、長州藩士の山形を討つ命令を受け刀を交えることになるが、途中で発生した落雷と共に現代にタイムスリップしてしまい、京都の時代劇撮影所に迷い込んでしまう。わけもわからず彷徨ううちに、撮影所の助監督である優子と彼女の知り合いであるお寺の住職夫妻に助けられて居候をはじめ、そこで観たテレビ時代劇に深く感動したことから、斬られ役のエキストラとして働くことにする……というお話。
日本製インディー映画として『カメラを止めるな』以来の大流行を見せていた作品。既視感のある設定から何となく敬遠していたが、予想通り個人的にはあまり合わない作品だった。そもそも、今作が愛を捧げるテレビ時代劇というものに全く馴染みがないというのもあるのかもしれないが。
全体的に気になるのは微妙にくどい演出で、ギャグシーンでいちいちひょうきんなSEが流れるところや、優子が監督を目指して毎晩脚本を書いてる……というセリフに合わせて言えば分かるのにわざわざ机に向かう優子の映像をインサートするところとか、細かいところでこれ別になくても良いなと思うことが多かった。
撮影中の時代劇に関しても、ちょっと展開やキャラクターが紋切り型過ぎてパロディコントを見ているみたいで、もうちょっと時代劇に明るくない自分でも魅力を感じるようなところを見せて欲しかった。
作品の一番の見どころは、ラストに待ち受ける撮影の名目を借りた真剣を用いた斬り合いの場面だと思うが、正直そんな危険なことをするまでの御膳立ては作中で出来ていないと思った。一応、斬り合いをする二人の念書付きでやるから大丈夫……みたいな理由づけはされていたが、そんなもんで許されることなのかな?
それまでの展開でも斬り合いを許可する監督はそこまで気骨のあるような奴には全く見えなかったし、最後まで反対するのが優子だけというのもちょっと不自然に思えた。肝心の斬り合いもスローモーションを多用するので段取り感があり、そこまでのヒリつきは感じられなかった。似たようなシチュエーションで言ったら『切腹』のラストの殺陣が凄すぎたので、どうしても比較してしまう。
主人公の山口馬木也さんは、顔付きや所作に至るまで本当の侍のようないぶし銀の魅力を持っており、この人の存在感により設定に説得力がもたらされていたのは良いところだった。
時代劇に対する純粋な愛と郷愁は間違いなく感じられるあたり悪い作品ではないと思うんだけど、自分の好みではなかったかな。