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ラストマイルのYAEPINのレビュー・感想・評価

ラストマイル(2024年製作の映画)
4.4
息もつかせぬ怒涛の展開は、まさに頼んだら速攻で届く某通販サービスのよう…。

膨大な荷物の中からの爆弾探し、膨大な派遣社員の中からの犯人探し、物流の限界や過労などの社会問題の提起、さらには塚原あゆ子監督×野木亜紀子脚本の過去作品『MIU404』『アンナチュラル』とのクロスオーバーまで…これでもかという要素を詰め込んだ上で、どれもおざなりにしない丁寧な構成に驚いた。
一部の隙なくおもしろい。

2つのドラマはどちらも最初の数話を見てやめてしまっていたので、内輪ネタたっぷりの続編映画だったらどうしようとヒヤヒヤしていたのだが、全くの杞憂に終わった。
初心者には大変ありがたかったし、門戸は広い方がいいに決まっているが、逆に『MIU404』と『アンナチュラル』の登場人物がいなかったらストーリーが成り立たなかったかというとそうではない(普通の警察、検死官でも成り立つ)。クロスオーバーはファンへの目配せでしかないのか?という気がしてしまう。
ワンシーンしか出てこないキャストまで豪華なので、むしろ情報量過多になっていたかもしれない。
例えば『アンナチュラル』のメンバーが突き止めた新事実が同時に「デリファス」メンバーによっても独自に突き止められていて、それぞれの世界の連携あっての解決とはなっておらず、もったいなく感じた。
ファンなら見逃さなかったオイシイシーンがあったのかもしれないが…。

巨大ECサイト「デリファス」では「顧客中心主義」を謳って配送業者を圧迫しているが、正直オンラインで注文した商品が翌日に届かないこと、に不利益を感じている人はどれだけいるだろうか。
もちろん急ぎの荷物がすぐ届くことには恩恵を受けているし、医療品は特にスピードが命だが、多くの注文は「自分が受け取れる時に届けば十分」のではないだろうか。
マーケティングでよく言われる「顧客の気づいていない欲望を引き出せ」というスローガンは、結局自社の利益を最大化するための聞こえのいい呪文なのだと思った。

そんなポリシーに満島ひかり演じる主人公もドップリ浸かってしまっていて、どんな事件が起ころうとも2.7m/sを止めないことに妄執する姿が興味深かった。配送業者への脅迫めいた指示は、下請法ギリギリのように見えて肝が冷える。
一方そこからの彼女の方針転換ぶりはやや唐突に見えた。
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