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薄氷の告発のnetfilmsのレビュー・感想・評価

薄氷の告発(2023年製作の映画)
3.3
 高校のカーリング部のコーチとして働きながら、穏やかな日々を送るジュヨン(ペク・ジニ )は、かつてアイススケートの元韓国代表選手だった。彼女の下にある日、かつてのアイススケートの同僚だったユラの自殺の報せが入る。私が昨年の年間ベスト10に入れたチョン・ジュリの『あしたの少女』や、キム・セインの『同じ下着を着るふたりの女』と似たような問題意識の物語でありながら、今作の物語が決定的に弱いのは描かれる物語がフィクションだからである。ジュヨンは、ユラが自ら命を絶った理由をすぐに察するのだがジュヨンは選手時代、協会のコーチだったヒョクスに性的暴行を受けていたが、ユラも同じ目に遭っていたのだ。当時、ジュヨンはヒョクスを訴えたものの、世間から好奇の目で見られることに耐え切れず、自殺未遂を図り、記憶を封じ込めることでなんとか生きながらえてきた。いわゆるハッシュタグmetoo運動以後の世界線は易々と国境を越えて行くのだが今作では男性社会の重い岩盤に縛られ、身動きが取れない。

 結論から申し上げれば今年これまで観て来た映画の中で最高の胸糞案件である。ユラの死をきっかけに、かつての記憶を蘇らせるジュヨンだがそんな中、コーチに復帰したヒョクスは、ジュヨンの教え子スジの引き抜きを企んでいた。ナショナル・チームが強化指定選手にすることを餌に選手を一本釣りをするリアリティはここでは脇に置くとしても、映画の設定として置いた仮想的の地盤はあまりにも強固過ぎて、ドラマにはなったとしても映画にはならない。2021年にショートトラック韓国代表の元コーチの2018年の性暴力事件が元になっているようだがそれならば堂々と正面切って当時の事件をストレートに告発した方が良かったように思うが、ある種の匂わせ的な形に収まるのは当然、流れが悪い。シスターフッド的な女性の連帯を示すのが2024年現在の世界線だとするならば、飛び降り自殺のイメージの連鎖は女性たちの無力化の連鎖と捉えられなくもない。今作を出発点とするならばこのような消極的な結末は日和ったと捉えられなくもないのではないか。
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