タル・ベーラ作品に初挑戦。
ハンガリーの荒廃した田舎町に巨大なクジラの剥製を見世物とした一団がやって来る。
一団に加わっている謎の人物"プリンス"の扇動によって暴動が起こり、ひょんな事で鎮静化する。
…プロットといっていいのかどうか?
設定がワケわからないながらw、とりあえず流れとしてはシンプル。
主な登場人物は
新聞や郵便物の配達を仕事としている純朴な青年ヤーノシュ
ヤーノシュが敬愛し身の回りの世話をしている老音楽家エステル
タル監督の特徴と聞いてた通り、とにかく極端な長回しの連続!
居酒屋客を惑星に見立てた自転&公転ダンス
何を話すでもなく並んで歩く横顔
興味津々でクジラに接近するヤーノシュ目線
画面を埋め尽くす暴徒たちの沈黙の行進
病院で展開される非情な暴力
灰色の空に揺れ動き、迫り来るヘリコプター
固定カメラでドライに捉えるというよりは、自在に動いててとても主観的に映った。
でいてサクサクじゃなく、ヌメ〜っとした動き。
リアルな主観をデフォルメしたような執拗さが不吉・不気味であり、アートでもある。
エステルは人為的に矯正された音律である"ヴェルクマイスター音律"を酷く批判し続ける。
本来の宇宙の調和に対する冒涜だと。
ここでピンときた!教授(坂本龍一)も似たようなこと言ってたなぁって。
人間が調律して「正しい」と言われる音だけで作るのが音楽じゃない、みたいな。
エステルとヤーノシュが重んじる宇宙の調和
人為的な調律美・秩序(≒共産主義?)
その秩序に抗う群衆の暴力
これってハンガリアン(監督自身?)のジレンマなのかな…
ふわっとしたロマンが、秩序vsアナーキーの争いという現実に打ちのめされた後の虚無感が強烈。
惑星のダンスを生き生きと指揮したり、未知のクジラを見て目をキラキラ輝かせていたピュアなヤーノシュの姿が懐かしくなる。
その時にしたら何でもないようなそんな記憶も、主観的な長回しでまるで実体験みたいに脳裏に焼き付いてるから。