一人旅

カンダハールの一人旅のレビュー・感想・評価

カンダハール(2001年製作の映画)
4.0
モフセン・マフマルバフ監督作。

妹の自殺を防ぐため、アフガニスタンのカンダハール目指し旅する女性ジャーナリストの姿を描いたドラマ。

アッバス・キアロスタミに続く、イラン映画界を代表するモフセン・マフマルバフ監督によるドキュメンタリータッチ&ロードムービー風味のドラマ。タリバン政権によるアフガニスタン支配及びアフガニスタン紛争を背景に、20世紀最後の日食を前に自殺すると宣言した妹を助け出すため、亡命先のカナダから妹のいるカンダハール目指し単身旅に出るアフガン人女性ジャーナリスト、ナファスの姿を、無限に広がる乾いた砂漠の映像の中に映し出す。妹を助け出すことがナファスの旅の一応の目的にはなっているが、監督が最も描きたいのはタリバン政権下のアフガニスタンが抱えるさまざまな実情。タリバン政権が現地アフガン人に強いる規則の実態がありのままに映し出される。

イスラム原理主義を基にした女性差別的政策の犠牲となる現地アフガン女性。“ブルカ”と呼ばれる全身をすっぽり覆う被り物の着用が義務付けられ、家族以外の男性に姿を見せてはならない。驚きなのは診察時の光景。医師に直接姿を見せてはならないため、男性医師と女性患者の間には一枚のカーテンが引かれる。カーテンには一か所だけ穴が開けられており、そこに女性患者が目や口だけを突き出してカーテンの向こう側から医師が診察する。どう見ても非効率な診察方法だが、それがタリバンが求めるやり方なのだから仕方がない。ちなみに、タリバン政権は女性にブルカ着用を強制するだけでなく、教育を受ける権利や労働も基本的に禁止している。そうした女性差別的政策に否応なく従わざるをえない現地アフガン女性の沈黙の叫びが胸に迫る。

さらに、紛争によって至る所に埋められた地雷とその犠牲となった人々の姿が鮮烈に印象に残る。赤十字センターには地雷により脚を失くした人々が義足を求めて殺到する。中には、「母親が両脚を失くした」と嘘をつき、金のために義足を不正に入手する者まで現れる。そうしたところから見えてくるのは、現地アフガン人の経済的困窮である。カンダハールまでの案内を請け負うかわりにナファスから50ドルもの大金をせびる少年は、砂漠の中で白骨化した遺体から指輪だけを抜き取る。モラルの崩壊。

タリバン政権下における女性差別・貧困・飢餓・地雷といった切迫した問題を、虚飾的演出なしにありのままに映し出した作品。秀作。
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