ヨーク

破墓/パミョのヨークのレビュー・感想・評価

破墓/パミョ(2022年製作の映画)
3.9
本作『破墓/パミョ』はそのタイトルが示すとおりに墓を破るというタイトルなのだが、いやー最初にそれを見たときにはトキメキましたよ。だって墓を破るんだよ? そんなの、どう考えても、ロクなことにならないじゃないか! こりゃとんでもない祟りや呪いのせいで人が死にまくる映画に違いないでー! とテンション上がって観に行ったというわけである。
果たしてその結果がどうであったのかというと、結論的には面白かったのであるが、俺が期待していたものは半分が期待通りで残りの半分は肩透かしな部分もあった。まぁ肩透かしとは言っても思ってたノリとはちょっと違うなというだけで全然つまんなかったわけではない。むしろ面白かった。でもそれはそれとして思ってたのとは違ったな…という気持ちはあるのである。
お話は主人公とその相棒が飛行機に乗っているところから始まる。主人公はキャビンアテンダントから日本語で話しかけられるのだが「私は韓国人です」と流暢な日本語で返すという印象的なシーンである。まぁそれはさておき二人が向かった先はロサンゼルス。何でも韓国にルーツを持つアメリカ国籍持ちの大変裕福そうな韓国系アメリカ人(2世?)の一家が謎の奇病に悩まされていて、どんな医者にかかっても原因不明なため母国の霊能者(主人公は巫堂と呼ばれる日本で言う巫女的な人)を招いたのだという。んでその巫堂の主人公は母国韓国にある彼らの一族の墓が呪いの原因であろうと推測し、韓国にいる主人公の師匠的(師匠というよりビジネスパートナーらしいが)な人と共に協力してその墓の呪いの謎に迫る…というお話である。
わりとしっかりめにあらすじを書いてしまったが、本作はちゃんと感想を書こうと思えば無視できない要素が沢山あるためにそうなってしまうのであるが、それというのが俺が観る前には思いもよらなかった思てたんと違う部分でもあるのである。観る前は人が死にまくるヒャッハーでご機嫌なホラー映画だと思っていたわけだが、実際はものすごく作り込まれた本格オカルトミステリーだったんですよね。だからぶっちゃけあんまり人は死ななかった。ぐちゃぐちゃの人体破壊とかお化けが出てきて惨殺される人々とかそのような幼稚な(しかし面白い!)映画ではなくて本格的な呪いのシステムとそれがどこからやって来たのかを探すミステリものだったんですよね。
だから正直に言うと冒頭は退屈で結構寝てしまった。でも中盤になったあたりから徐々に呪いの正体が分かって、それが物語をガンガンドライブさせていく構成が見事に機能していて途中からはめっちゃ面白かったですね。これは俺以外にも同じ感想を言っている人がいたが、本作は今年の邦画でも上から数えた方が早いくらいに面白かった『陰陽師0』に近いもので、あちらもCGとかを駆使したド派手な呪術や陰陽術のバトルものというよりもオカルト探偵ものとでも言うべき落ち着いた作風であった。もちろんそれは人を選ぶ作風で、俺のようにオカルトミステリーが好きな者ならハマるだろうが派手な霊能バトルものとか血が噴き出てウワー! ギャー! みたいなIQの低いホラーものを期待した人にとっては肩透かしも良いところであろう。
だって本作はそこで描かれる呪いというのが非常に重層的な呪縛として描かれていて、あらすじで書いたようにオープニングは日本語で話す韓国人の主人公の描写から始まるのだがそこにもちゃんと意味があって、前大戦での負の歴史やさらにそれ以前の韓国の歴史が持っている拭い去ることができない歴史というものそのもが呪縛として描かれるんですよ。そしてそれは主人公たちが救おうとするクライアントでもある呪われた一家も同じことで、彼らはアメリカで経済的に成功して何不自由ない生活をしているにも拘らず自らのルーツである韓国にある一族の墓のせいで呪いという呪縛をその身に背負ってしまうのである。つまり、血と地、そして歴史という個人ではどうしようもないようなものに縛られて呪われているというわけだ。ま、みんな大好き因習村なんてのも血と地とその村の歴史という要素は絶対に外せない部分なので呪いや呪縛といったテーマだとそこがクローズアップされるのは当然なのかもしれないが。
そういったドロドロとした粘度の高い負の情念を描く手法も非常に高度に構造化されたもので、上記した血と地と歴史に加えて、儒教や仏教やキリスト教や神道といった各宗教の描写を織り交ぜてオカルト感バリバリなお祓いや結界や読経といったような霊能バトル要素も観せてくれるのである。これはもうそういうの好きならたまんねぇよな、という映画になってると思いますよ。
ただまぁ、これもすでに言っているようにオカルトミステリー色が強いので霊能バトル的なところは予算的な問題もあったのかもしれないが、そこまで派手なものではない。人も死ぬけどそんなに沢山は死なないし、あんまり面白い死に方って言うのもなかった気がする。まぁ見どころは幾重にも重層的に張り巡らされた呪いの正体を探る物語というところですね。なので本作は正直『呪術廻戦』よりも呪術廻戦してたんじゃないかな。まぁ俺は呪術はアニメでやった分しか知らないが!
そういう感じなので派手さこそないものの面白い映画でしたよ。ま、繰り返しになるが個人的にはもっと人が死んで欲しかったですけどね。でもそういうバカっぽい勢いの映画ではなくてキチンと計算されてよく出来た面白い映画なんですよ。でも、だからこそ理性を超えた恐ろしさのようなものもなかったかなぁとも思う。まぁ面白かったからいいんですけどね。
ちなみに『陰陽師0』に似ていると書いたが、そちらと比べて本作のスコアがやや低めになっているのは多分『陰陽師0』の方は面白かったのに評判が悪かったせいで、クソー! 俺だけは高めのスコアにしてやるー! と思いながら感想文を書いたためだと思われる。正直どちらも同じくらいによく出来たオカルトミステリーでその手の物が好きな人には刺さる作品であると思います。ま、でも『陰陽師0』の方が後味良く終わっているので不特定多数の人にオススメできるというならやはり少しスコアを高めにしているということにも意味があるかもしれないですね。
まぁ本作も救いのないラストとかではなくてかなり無難な終わり方にはなってますけど。まぁ取り敢えず面白かったです。オカルトマニアの方には必見でしょう。
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