さわだにわか

オン・ザ・フロント・ライン 極限戦線のさわだにわかのレビュー・感想・評価

3.4
シナリオの焦点が定まらず散漫とかウクライナ国外の人には人物の関係性がかなりわかりにくいとか映画っていうかこの編集の感じからするとテレビ向けのスペシャルドラマ的なやつなの?みたいな難点はあるが、「オレンジ革命によりヤヌコーヴィチ独裁が倒され」というナレーションから始まったのでもっと愛国愛国しい軍事ものかと思うたら案外ルハンシクのウクライナ国境防衛隊側と親ロ分離派側が平等に近いトーンで描かれていて、考えは違うがまぁ元々は同じところに住んでたのだし通じ合うところはそりゃあるよね、という意味で国威発揚の気は薄く、わりあい厭戦というか、戦争疲れを感じるのは意外なところだった。

ウクライナ側はドンバス(ドネツク・ルハンシク)の独立とロシア勢力圏編入を認めていないので、なんだかんだ言っても俺たちは仲間なんだ感を出すことが、2023年(製作時)の現状ではクリミア半島およびドンバスの奪還なしに戦争終結はあり得ないとするゼレンスキー政権の方針と合致しており、その意味では戦意高揚というか戦意維持の愛国映画とも言えるのだが。

戦争映画といっても多くの尺が割かれるのは開戦前のルハンシクの日常であり、ロシア系住民女性とキーウ出身のヤンチャ兵士の他愛ない交流などが描かれる中、ロシアのバックアップを受けた分離主義勢力による破壊工作や諜報活動が徐々に日常を侵食していく、そのサスペンスが映画の主軸。

派手な見せ場は少ないが、冷たいトーンの映画が多い気がするウクライナ映画の中では珍しく人間味が感じられ、ウクライナ戦争の起源がオレンジ革命(ユーロマイダン革命)にあり、その本質はロシアの帝国主義的対外政策にありということも再確認できるので、まぁまぁ悪くない映画だったんじゃないだろうか。
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