さわだにわか

世にも怪奇な物語のさわだにわかのレビュー・感想・評価

世にも怪奇な物語(1967年製作の映画)
3.5
『メッツェンガーシュタイン』『ウィリアム・ウィルソン』とポーの有名原作を二本も含むオムニバスなのにポーの名を冠していないばかりか各章の邦題は原題からかなり離れたものになっているので、この映画が公開された当時はポーの名前が売れるものとは見なされていなかったんだろう。そういえば『大鴉』も新東宝が『忍者と悪女』の邦題で配給してたな。この冷遇っぷりはポーの模作からキャリアをスタートさせた江戸川乱歩を擁する日本の場合とりわけ不可解な気もするのだが…。

というわけでポーの名誉を回復すべくあくまでもポー原作映画として観てみるとまず『メッツェンガーシュタイン』原作の第一話は間延びして面白くないだけでなく監督のロジェ・ヴァディムがポー的なるものを理解していないのでかなりダメで、どっかの城を借りて撮ったゴシックな風景や退廃的なムードは悪くないとしても、『メッツェンガーシュタイン』はオチが最重要な短編なのにそのオチの部分が完全に改悪されてほとんど機能していないので、センスがないとしか言いようがない。

この作品の顔として長年語られてきた第三話のフェリーニ編は章の原題がtoby dammitといい、あれそんなタイトルのポー原作あったっけと思ったら、これは風刺小話『悪魔に首を賭けるな』が原作であった。まず、どうしてそれを映像化しようと思ったの!?権利的な事情は知らないがいやなんか他にもっとあるんじゃない映像化に向いたしかもフェリーニ向きのポー原作!?しかもこれ脚色がスゴすぎてもう主人公の名前とラストシークエンスのちょっとした描写ぐらいしか原作と重なるところなくない!?

これはたぶん青空文庫かどこかで読めると思うので、5分ぐらいで読める分量だし、読んだことのない人はぜひとも原作を読んでみてその超絶脚色っぷり、原作完全無視っぷりにびっくりしてほしい。フェリー二映画としては映画業界の虚飾やカーニバルといったフェリー二らしい要素に加えて、迷宮村をスポーツカーで暴走するあんがい凶暴な終盤なんかデヴィッド・リンチの『ロスト・ハイウェイ』に影響を与えてそうな感じで、面白く見られるが…。

ということで意外なことに(?)いちばんポー原作の核心を理解してなかなか上手い映画化を行っていたのは第二話『ウィリアム・ウィルソン』のルイ・マルだった。これはウィリアム・ウィルソンを演じたアラン・ドロンの冷酷でありながら神経質でいつもどこか怯えているような芝居も見事にポーだし、フラッシュ・フォワードや素早いカッティングを駆使したスタイリッシュな映像はポー作品の命脈たる「予兆」や文章が読者に与える効果を第一に意識して作品を書いたポーの「効果主義」を、原作の持ち味を損ねることなくしっかりと映像に変換できていたように思う。

単体でもなかなか面白く見られる映画だが、しかしこの映画の真価はイタリア映画界にポーという金脈を発見させた点にあるんじゃないかと個人的には思う。というのもその後、イタリアン・ホラーの帝王の座に君臨することになるルチオ・フルチは自作で幾度となくポーを引用しているからだ。ある意味、イタリアン・ホラーはここから始まったとも言えるのである…。
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