るるびっち

アビゲイルのるるびっちのレビュー・感想・評価

アビゲイル(2024年製作の映画)
3.4
誘拐した少女が吸血鬼だった。
ポスターにもあるから、ネタバレじゃないよね。
問題は、この吸血鬼が弱い。
なので怖くない。
ホラーではなく、段々ドタバタコメディになってくる。
更に駆け引きの騙し合いになり、ロックミュージカル風やヒューマンドラマになる。
やりたいことを色々詰め込んだ感じ。
その分、怖くなくなっていく。

そもそも人間と駆け引きする吸血鬼って、弱い証拠だろう。
強ければ駆け引きの必要はない。
もっと進出鬼没で圧倒的な怖さで、悪党共を駆逐して欲しい。
中途半端に、悪党たちの人間ドラマに風向きが変わる。
観客が望むものと違う方向に進む。

実は吸血鬼少女アビゲイルと、訳アリな小悪党女性ジョーイには共通点がある。
アビゲイルは、振り向いてくれない父親への思いがある。
ジョーイは引き離された息子への熱い思いがある。
つまりこの話は、親子がテーマになっている。

なぜアビゲイルとジョーイが、あの状態になるかと言うと共鳴し合っているからなのだ。
その辺が上手く伝わっていないので、疑問に思う人も多い。

最初の方でアビゲイルが、「子供の遊びを知らないの」と言っている。
この誘拐茶番が、実は彼女にとっての遊びであることの伏線だ。
その一方、彼女の満たされない想いを表している。
ネグレクトな吸血鬼の父親を振り向かせたいという、いじらしい願いが籠っているのだ。
その為の遊びだとしたら、恐ろしい分だけ切ない。
阿鼻叫喚の殺戮で幾ら人間を殺しても、ちっとも褒めてくれないし、認めてもくれない。
残酷になるほど満たされぬ少女の気持ちで溢れたら、観客は恐怖と悲しみの奇妙な感覚を得たかも。

またジョーイとアビゲイルの関係も、子供を捨てた身勝手な母親とアビゲイルが誤解していた方が良い。
ジョーイを執拗につけ狙う前半があって、誤解が解けて子供を愛していると知った時、アビゲイルが共鳴すればドラマとしてもテーマが伝わる。後半の展開にも疑問が湧かないだろう。
所々に仕込みはしているが、有意義に機能していない映画だと思う。
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