耶馬英彦

No.10の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

No.10(2021年製作の映画)
4.0
 荒唐無稽なストーリーではあるが、悪くない。前半の日常的なシーンに、後半の急展開の布石が置かれている。また12という数字、劇中劇がコラージュであること、娘の健康診断結果、No.10というタイトルなど、ヒントもいくつかある。

 ワインを飲みながらテレビを見る大男のシーンは、最初、何の意味があるのか不明だったが、よく見ると襟カラーを着けている。手下と思しき黒人も襟カラーだ。ということは、ふたりともカトリックの神父である。
 3日前に観た「オーメン・ザ・ファースト」に似た部分があった。キリスト教団が教会の存続と繁栄のために手段を選ばないところだ。ヴァーメルダム監督は、よほどカトリック教団が嫌いだと思われる。

 オランダはフランスと同じく、国民の過半数が無宗教だ。不倫についても寛容である。しかしカトリックは不倫を許さない。姦淫などという古臭い言葉が使われる。本作品にはカトリックの独善に対するアンチテーゼも感じられた。
 ポスターのコピー「油断大敵。世界中を大混乱に陥れた戦慄の巨大モニタリング・サスペンス」は、大袈裟すぎて笑えるが、モニタリング・サスペンスというのは間違っていない。主人公が何を信じるかがポイントで、本人が虚構を演じる役者であるところに、ある種の皮肉がこめられている。この役者はとても上手い。
耶馬英彦

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