耶馬英彦

プリシラの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
3.5
 ソフィア・コッポラ監督は、2020年の「オン・ザ・ロック」では、上手くまとまったホームコメディで女性の人生のターニングポイントを描いてみせた。本作品では同じく女性のターニングポイントを描いているのだが、見ていて辛いドラマであった。

 女性が生きづらいのは現在も同じだが、20世紀後半は、第二次大戦後の繁栄がありつつも、女性の権利は制限されており、まだまだ活躍しづらい時代だった。「家の火を絶やさないように」というプレスリーの口癖に代表されるような、家父長主義的な古い価値観から、社会が脱却しつつある過渡期でもあった。

 2022年のバズ・ラーマン監督の「エルヴィス」では、気が弱くて、売れていることに得意な反面、いつ売れなくなるかの不安に苛まれてもいる繊細なエルヴィスが描かれていたが、本作品では、マザコンで成金趣味、女をペットみたいに扱う身勝手な男として描かれている。プリシラにとっては、当時の世間のパラダイムの代表みたいな存在だから、典型的なキャラクターにしたのだろう。

 恋が命の思春期の女性にとっては、時代など関係なく、とにかく好きな人と一緒にいたいだけだ。プリシラも暫くはそうだった。やがて自分の立場を理解し、時代の価値観に縛られていることに気づく。それでもエルヴィスが好きなことに変わりはない。長い期間の葛藤に苦しむが、持ち前の負けん気のお陰で、心を病むことはなかったようだ。
 むしろ、エルヴィスとの出会い以降、経験を重ねていく中で、プリシラが様々な駆け引きをしているのが分かる。恐らく無意識の行動なのだろうが、女性が自分の権利に目覚め、生き方を模索していく上で、自然に身につける護身術でもあるのかもしれない。女はこんなふうにして自立してきたのだという、コッポラ監督の世界観が伝わってきた。
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