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季節のはざまで デジタルリマスター版のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 ダニエル・シュミットの難解なフィルモグラフィの中で、今回はどうしてこの2作が選ばれたのかは私には皆目見当が付かない。然しながら時代の機微を邪推するとすれば、昨年ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選において初上映された『天使の影』を含め、マーメイド・フィルムは3作品を同時に買い付けたのではないか?然しながら『天使の影』以外の2作はライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選とは何の関係もなく、紐づけられずこのタイミングになったように思うが、もしもそうであるならば昨年のライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選と地続きで行くべきだったように思う。『デジャヴュ』から5年が経過しているものの、ダニエル・シュミットの幾つものけれんみが剥がれ落ちていることに賞賛を禁じ得ない。幼い頃の「シュバイツァーホフ・ホテル」時代の貴族のような優雅な生活の回想と呼べば良いだろうか?彼が自身のLGBTQIA+のマイノリティ的な感覚に決定的に気付いたのは25歳の頃のライナー・ヴェルナー・ファスビンダーとの出会いであり、ファスビンダーと彼の当時の妻イングリット・カーフェンと出会ったことが彼のセクシュアリティを決定付けたわけだが、今作に描かれるのはそれとは遥か昔の少年時代の無邪気なエピソードの数々である。

 舞台となるのはスイスの山中にある閉鎖され、しばらく空き家になっていた老朽化したホテルで、このホテルはかつてヴァランタン(サミー・フレー)の祖父母が所有していたもので、彼がが生まれ育った場所であるという。彼は、古い建物にまつわる思い出に浸るつもりで、最後にホテルを訪れたのだが、不意にデジャヴュのようにこのホテルの宿泊客や従業員たちが彼の眼前に立ち現れる。ヴァランタン少年(カルロス・デヴェーザ)にとって世界一の美女であるアニタ・ステュデール夫人(アリエル・ドンバール)はホテルの常連客で、テニスのコーチやエレベーター係、ホテルの客と浮き名を流している。夜ごとバーで演奏するピアノ弾きマックス(ディーター・マイアー)と歌手リロ(イングリッド・カーフェン)のコンビ。マリーニ教授(ウリ・ロンメル)の怪しげなマジック・ショー。売店のガブリエル嬢(アンドレア・フェレオル)はミッキーマウスの最新コミックスをヴァランタンに渡してくれる。そして素晴らしく魅力的なこのホテルを経営する祖父母。おばあちゃん(マリア・マッダレーナ・フェリーニ)の語る昔話の数々。ロシアの外務大臣と誤ってパリの下着屋を射殺してしまったアナーキストの女(ジェラルディン・チャップリン)。そして若き日のおじいちゃん(モーリス・ガレル)が大女優サラ・ベルナール(マリサ・パレデス)に愛された話。時代と時代が交差し、今この瞬間と過去とが見事な層を成し、主人公を混沌に陥れる。生者こそが死人で、とうの昔に死人になった人々の活気に魅了されるようなダニエル・シュミットの奇妙に捻じれた世界に大いに魅了される。
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