[ベナンに戻ってきた美術品たちについて] 80点
傑作。2024年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品、金熊賞受賞作品。マティ・ディオップ長編二作目。2021年、フランスはダホメ王国から略奪した美術品26点をベナンに返却することを決定した。物語はおおよそ二部構成になっており、前半はフランスでの梱包からベナンでの開封展示作業、後半はベナンの若者たちの討論会を描いている。前半ではフランス人によって"26番"の名付けられた美術品が喋り出し、闇の中で待ち続けた130年を思い返しながら、自分が知る時代の130年後の故郷に思いを馳せる。同じ年のベルリンコンペにカバが喋り出す『ペペ』があったので、喋り出す系映画が渋滞してるコンペだったんだな。この"26番"がどの美術品なのかは判然としないが、最終的に西欧人から与えられた奴隷のような番号を捨て、130年後の子孫たちの前に佇んで"変貌の象徴である"ことを自覚するのだ。カメラごと木箱の中に梱包する長回しの後、そのカメラがベナンでの開封の儀を内側から撮るという奇妙な光景が眩しい。後半はベナンの若者たちの討論会で生の意見が熱くぶつかり合う。フランス語で自国の歴史を学び、フランス語で生活の全てを表現する彼ら彼女らの言葉は、苦しみと怒りと悲しみと様々な感情が入り混じりながら、故国の歴史と現在と未来をしかと捉えている。中でも"なぜベナンが頼む側なんだ?"という発言には大きく首肯してしまった。ベナンにちゃんとした保管設備や人的・財的資源があるのか?という西欧人の言い訳も"ダホメ王国の人間が独自に保管してきた方法がある"と答えていたのには虚をつかれた。そりゃそうだ元の持ち主なんだから。私も西欧的な保存展示を基準的価値観として押し付けていたのだなと気付かされた。今回の返却受入と展示を担当したベナンの学者?の人は"安心して託せる若い世代がほしい"と言っていた。展示をすることが第一歩であり、討論会で第二歩目が期待できそうな予感をさせる、上手い構成だ。