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ロードハウス/孤独の街のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ロードハウス/孤独の街(2024年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

地下格闘技場にやってきた女性フランキーは、自身が経営する店の用心棒を探していた。そこに突如現れたのは、姿をさらすだけで相手が恐れ慄く男、元格闘家のダルトンだった。賭けに負けた腹いせで客から腹を刺されてしまったダルトンに、フランキーは「店の用心棒を週5000ドルでやってくれないか」と直談判する…。

激しく肉を殴る音が響き、骨が折れるようなリアルな痛みが画面から伝わってくる。
何ともガチな肉弾戦が見れるアクションの快作だ。
この映画が配信のみとはもったいない。
劇場で大スクリーンで公開されたならクライマックスなどは怪獣映画も顔負けの迫力だっただろう。

1989年のパトリック・スウェイジ主演作「ロードハウス孤独の街」を現代風にアップデートしたリメイク作。
監督は「ボーン・アイデンティティー」のダグ・リーマン。
製作に「マトリックス」シリーズなど数々の大作を手がけてきたジョエル・シルバー。
主演は「彼の主演にハズレなし」の異名を持つジェイク・ギレンホール。
この布陣で面白くならない訳がない。

設定はオリジナルと全く一緒だが、オリジナルにはダンサー出身のパトリック・スウェイジのアクションにそれこそ舞うようなカンフーっぽさがあった。(構えや回し蹴りなど)
そこにリアリティは無く、ヒーローファンタジーに見えたのを覚えている。
「流れ者がトラブルを解決して去る」アメリカならではの西部劇の王道ストーリーにカンフーをミックスした形が当時としては新鮮だった。
銃社会のアメリカで、とことん素手で戦うとところもだ。

本作でリアルなのはファイトシーンだ。
何せ主人公は元格闘家という設定。
しかも、かなりの有名選手で地下クラブの選手は見ただけで逃げ出すほど。
おもむろに脱いだジェイク・ギレンホールの肉体も素晴らしい。
見せるための大きな筋肉ではなく、脂肪の無い野生動物のような肉体。
よくぞそこまで絞り込んだと、役者魂に感心してしまう。

何か過去のトラウマを抱えるダルトンは線路上に車を止めて自殺を考える。
寸前に思い直したが車が接触して大破。
宿無しの上に車を失ったダルトンは、用心棒の依頼を引き受けるため店に向かう。
その到着した夜に、ダルトンは早速その腕っぷしを発揮する。
「保険は入っているか?」「ここから病院は近いのか?」と相手への気遣いが、そのまま大人数への挑発になる。
そして、始まったファイトの素早く、的確なことといったら。
ダルトンは急所の鼻をまず殴ったと思ったら、怯んだ隙にすかさず蹴り飛ばし、ポカンとしている仲間も一方的にタコ殴り。
瞬き禁止のほんの1〜2分で全員病院送りの大怪我だ。
かの「ファイトクラブ」でもちゃんと描かれなかったステゴロシーンである。
「強くなりたい」と思ったことのある男子なら、もうこの序盤で心を鷲掴みにされる。
しかも、ご丁寧にダルトン自身が病院まで送り届けて、ヒロインとなる看護士エリーに怪我の度合いまで紳士的に説明する。
もし喧嘩にプロという人間がいるなら、こういう人間だろう。
最後まで責任を持つ姿勢がプロである。

狭い島であっという間にダルトンの名が広まる。
店員たちもダルトンを認め、他の用心棒も彼の教えを受け、ダルトンが出るまでもなくなったが、店を潰そうとするチンピラの影は絶えない。

ある夜、歩いて帰宅するダルトンに初日に店を荒らした一味のリーダーの車が襲い掛かる。
車ごと海に墜ちたダルトンは何とか帰宅するが、彼が住むボートハウスには一味のリーダーがとどめを刺すために待ち構えていた。
一悶着の末海に落ちたリーダーは、ワニに食われて命を落としてしまう。

ダルトンは、なぜ自分に執着するのか、そして店を荒らすことに執着する集団がいるんか疑問に思う。
その背後には店を立ち退かせてリゾートを建設しようと暗躍するマフィアの陰謀があった。

街を牛耳るベンはマフィアの二代目のボンボン。
そんな息子を頼りなく思ってか、刑務所に収監されている父は刺客を送り込む。

その男ノックスは、全裸に携帯電話一つのインパクトある姿で登場。
恐らく誰かの女を寝取った後、服を調達するのに店を燃やしたり、平気で車を盗んで暴走してぶつけたりと、見るからに歯止めの効かない狂気の男。
身体付きが俳優とは思えず、調べてみると演じるコナー・マクレガーは本物の格闘家だった。
これは強烈なキャラクターである。

早速手下を引き連れてロードハウスに来るや否や暴れ出すノックス一味。
ダルトンはノックスと対峙するが、殴り殴られるもお互いに一歩も引かず、勝負がつかずに引き分けに。

そこからダルトンの過去が、彼の見る悪夢で明らかになる。
対戦相手をレフェリーストップがかかっても尚攻撃し、死に追い込んでしまったダルトン。
追い込まれたら何をしでかすか分からない狂気をダルトンも秘めているのだ。
自分でも止められない別の顔に嫌気がさしたダルトンは格闘家を辞めたのである。

そんな側面を持つからこそ、同じく暴力の歯止めが効かない刺客ノックスとの戦いが熱いクライマックスになっている。

もう人は殺さないと心に誓っていたダルトンが、スマホやネットでとうに彼の過去を知りながらも自分に親切にしてくれたロードハウスのスタッフや近所の本屋の家族にまで被害が及び、ベンがエリーを人質にとったことで遂に堪忍袋の緒が切れる。

ベンのアジトで容赦なくチンピラを殺し、本気を見せていくダルトン。
怒らせたらもう止まらない。
ベンの船を爆破してエリーを救出した後は、追いかけて来たノックスとロードハウスでの一騎打ちだ。
総合格闘技を選手目線で見るかのような殴り合いのドアップ映像が斬新。
そこに投げ技や寝技など激しい組手を取り入れている。
2人がもつれあい、店が破壊されていく様は怪獣バトルが街を破壊していく様に似ている。
どちらが最強なのか?と、どこまでも素手で戦うことにこだわるのかと思いきや、劣勢になったノックスが店の破片でダルトンを刺す。
それに呼応するように「お前がそう来るなら」とノックスを木片で滅多刺しにして倒すダルトン。
とことん素手で雌雄を決して欲しかったのが残念だが、もう見ていて痛いのなんの…リアルファイトに満腹である。
範馬刃牙の漫画を実写で見た思いだ。

戦いには勝利したが、決着がついた後の最初の言葉が「すまない」と言うのが良い。
誓いを破ったことを反省している。
結果的に人を殺しているダルトンはこれ以上島に留まるできないと判断し、島を後にする。
どこか淋し気な表情を浮かべながら島を後にするダルトンを映して映画は終わる。

オリジナルも西部劇を元ネタにしてるはず。
その映画を現代を舞台にして再リメイク。
近年のハリウッド映画には「暴力の時代は終わった」と言うような風潮があるが、理不尽な暴力にはまだまだ自衛が必要なのだろう。
銃器に頼らぬ本当に強い新たなヒーロー像である。

安定の演技力を持つジェイク・ギレンホールが研ぎ澄まされた肉体を持てば、並のアクション俳優ではリアリティで敵わない。
そして演技初挑戦とは思えないコナー・マクレガーの狂いっぷり。
突き抜けた感のある肉弾戦が強烈である。
荒唐無稽ではあるのだが、王道のストーリーでアクション映画はまだまだやれる事があるのだということを感じる痛快作である。
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