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アステロイド・シティのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

1955年、アメリカ南西部の砂漠の町アステロイド・シティ。隕石が落下して出来た巨大なクレーターが観光名所となっているこの街に、科学賞を受賞した5人の少年少女とその家族が招待される。やがて授賞式が始まると、そこに突如として宇宙人が現れ人々は大混乱に陥ってしまう…。

どの場面を切り取っても絵になるアートでお洒落な映像表現と思わずクスッと笑ってしまうシュールなストーリーが魅力のウェス・アンダーソン監督作品。

アステロイド(小惑星)という題名から勝手にSFを期待していたが、宇宙人が現れるのは僅か一瞬。
しかも町で起こることは全て筋書きのある演劇で、その舞台裏をテレビ番組で紹介しているややこしさ。
本作は劇中劇のスタイルを採用した一種のメタフィクションだ。
何かしら比喩やメッセージが込められていると思うのだが、登場人物が多くてこれまたややこしくて難解。
だが、人々が突拍子もない事態に振り回される姿がクスクス笑えるコメディである。

子どもたちに母親が亡くなったことを言い出せない父親、映画スターのシングルマザーなど、参加者たちがそれぞれの思いを抱える中で授賞式が始まるが、突如として宇宙人が現れ人々は大混乱に陥ってしまう。街は封鎖され、軍が宇宙人到来の事実を隠蔽する中、子どもたちは外部へ情報を伝えようとするが…と、いう話が実は舞台劇。

1950年代、「古き良きアメリカ」がまだ残っていた頃の架空の物語だ。
この町はこの監督らしく、とてもカリカチュア(誇張や風刺)されている。
砂漠のど真ん中でありながら、モーテルやダイナーはポップな色調で、銀行など無さそうなのになぜか強盗とパトカーがチェイスを繰り広げ、遠くでは物騒なことに核実験のキノコ雲が上がる。
舞台となる町「アステロイド・シティ」は殺風景ながらも、何か起こりそうな雰囲気に満ちている。

宇宙への憧れと科学信仰の強かった50年代を象徴するかのように、町で天才の子どもたちに化学賞を授与するセレモニーが開催される。
だが授賞式の最中に突然宇宙人が来訪。
町の宝である隕石を「これ、僕の落とし物です」と言わんばかりに申し訳無さそうに持ち去るのが笑える。

未知との遭遇により、ウイルスや電磁波など未知の物質に侵されたのでは?と町は軍隊によって封鎖され、見た目は明るい町に不穏な空気が漂い始める。

一方で、この舞台劇の裏側をテレビが密着している。
この先どうなるのか?と不安がっている役者がいたり、役が理解できずに悩む役者もいる。
舞台劇のカラフルでポップな色調と違い、現実世界であるこちらはモノクロで、地味で暗い印象を受ける。

そこに劇作家が突如亡くなってしまったことが伝えられる。
そのせいで劇の世界も現実も全てが止まり、宙ぶらりんに。

父親役の主演俳優は小道具の電球を破壊するなど、自暴自棄な振る舞いを見せ、さらには熱されたトースターにわざと手をのせて、掌にひどい火傷を負ってしまう。
映画スター役の女優は思わず役柄を忘れ、「あなた、本当に火傷してるわ…!」と驚く。
舞台劇も現実も結末が見えないことで、どんどん混乱をきたしていく。
それをテレビカメラが淡々と捉える。

舞台劇ではある朝、父親が目が覚ますと他のみんなは既に旅立った後。
父親と家族は他のみんなと同じように新天地に旅立つところで映画は終わる。
描かれてはいないが、恐らく現実世界でもこの舞台は上演されずに解散しただろう。

何の解決もなく、何の盛り上がりもなく、「何じゃそれ?」「どういうこと?」と不満の声を挙げる者も多いだろう。
私自身も「えっ?これで終わり?」と思った。

現実世界で役者たちが、「眠らなければ、起きることはできない」と謎の言葉を連呼するが、本作が作られた意図はそこに集約されるのではなかろうか?
私たちも日々とっ散らかった日常を何とか潜り抜け、一日の終わりにようやく眠りにつく。

本作もそうだ。
舞台劇の人物たちも好き放題行動して、現実世界の役者やスタッフたちも悩めるだけ悩む。
そこで劇作家が死に、2つの世界は眠りにつくのだ。

そしてリセットされた日がまた始まる。
貴方の空想(脳内)の世界は自由で華やかでしょ?
貴方の現実は誰かの指示で働く訳だし、気に入られようと悩み続けるから、とってもつまらないでしょ?
それに気づくには自分を客観的に(テレビスタッフのように)見ることが必要だよ。
一旦、全て忘れて眠ってしまえば、新しく良い日がやってくるさ…。
そんなことを監督に言われているような気がする。

私の解釈が合っているかどうかなんて分からないし、分かったところで何の意味もない。
散らかるだけ散らかして、全てをぶん投げて終わるというのが、オチを求めるコメディとしては斬新なところ。
混乱した話(人生)の救いの手は、寝てしまう(投げ出してしまう)ことであるというデウスエクスマキナ。
はっきり言えば何も心に残らないし、それこそ寝てしまえば忘れてしまう物語だ。
もしも、そのユルさを狙って作ったとしたら、すごいことなのだが。
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