ナガエ

ザ・エクスチェンジのナガエのレビュー・感想・評価

ザ・エクスチェンジ(2022年製作の映画)
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「実話を基にした物語」と映画の最後に表記されるし、観る前の時点でそのことは知っていたので、冒頭から「これが実話なのか?」と戸惑った。その後の展開も含め、どう考えても「実話とは思えないような物語」なのだ。

映画の最後に、「They’ll be back.(彼らは戻ってくる)」の文字と共に、実際の映像がいくつも流れた。人質が戻ってきた様子を捉えた映像だ。それを見てようやく、「色んな実話から様々な要素を組み合わせて生み出された物語なのだな」と理解できた。公式HPにも、「本作は、2014年からウクライナとロシア間で実際に行われた捕虜交換や、様々な実話から着想を得て制作された。」と書かれている。まあそうだよなぁ。この映画のようなことが本当に起こったとは、ちょっと信じがたい。

さて、公式HPを読んで驚かされたことがある。本作は、ウクライナを舞台にした物語である。そして撮影は実際にキーウで行われたのだそうだ。公式HPには、次のように書かれている。

【映画の撮影は2021年末のキーウで行われており、2022年にはロシア軍によって多くの撮影場所が破壊された。現在、制作スタッフやキャストを含む、多くの男性たちがウクライナ軍に加わっている。】

映画の制作陣からしたら、「過去がまたしても追いかけてみた」みたいな状況だっただろう。実際の戦争を舞台にした映画を撮影した直後に、本物の戦闘に駆り出されているのだから。本当に、なんとも凄まじい現実である。

では、まずは物語を紹介しておこう。

民兵組織カルパチアンの志願兵部隊に、コンスタンティン(コスチャ)はいる。彼の父親がキーウで外科医をやっていることをしっている仲間が、「コスチャが誘拐されたことにして身代金をせしめよう」という話をしている。武器などを買う金にするためだ。そして実際に、ドネツク人民共和国軍を名乗り5万ドルを要求する電話を掛けた。

手術を終えたばかりだったコスチャの父親であるオレクサンドル(サーシャ)は、当然その電話を詐欺だと思い、一蹴した。というのも、息子は大学に通っているはずだからだ。「はず」というのは、彼が離婚しているからだ。サーシャは病院の看護師と再婚予定だが、なんとなく胸騒ぎがして、コスチャに会うために元妻を訪れることにする。しかしそこで、コスチャがカルパチアンに所属していることを知る。もしかして、先の電話は本当だったのだろうか?

そして、元々は嘘だった話が現実となってしまう。コスチャは実際に、ゴーストと名乗る人物に囚われてしまったのだ。サーシャは3日後、指定された場所に1人で来るように要求された。

サーシャの新しい恋人は、本当に1人で向かおうとするサーシャを説得し、軍の大佐に連絡を取るように強く求めた。その結果、精鋭部隊を護衛に付けてもらえることにはなったが、あくまでもサーシャが犯人と対峙するしかないと告げられる。
そしてサーシャは、指定された日に5万ドルを持って約束の場所に出向いたのだが……。

「実話だ」という頭があったので、思いもしない展開になって驚いた。冒頭でも書いたが、さすがにこの展開すべてが実話とは思えない。なかなかにムチャクチャな話である。もちろん、実際にムチャクチャなことがウクライナでは起こっているのだから、物語そのものが実話通りでなくても、制作陣には「これはほぼ実話みたいなものだ」みたいな感覚があったのだろうと思う。観客としては、そういう気分で観るのがいいだろう。

映画としての評価に触れると、正直に言えば、「ベタだなぁと感じる演出」が多かったように思う。ベタが悪いわけではないが、「実話だ」という頭で観ていることもあって、ベタな展開が多いとどうしてもフィクション感が強くなってしまうところが残念だったように思う。

そういう意味で、本作の「実話に基づく物語」という打ち出し方が果たして正解だったのだろうか、という気分にもなる。「実話」として提示することで、不必要にハードルが上がってしまったような気がする。とはいえ、「実話だ」という触れ込みだったから観ようと思ったわけで、やはりその辺りの塩梅はなかなか難しいものがある。

正直、「フィクション」だと思ってみれば、よく出来た話だと思う。待ち合わせ場所に辿り着いてから、一体どんな風に物語が展開するんだろうかと思っていたのだが、「実話だと信じるにはちょっとありえなさ過ぎるが、フィクションとしては見事な展開」が待っており、なかなかワクワクさせられた。かなりの極限状況の中を切り抜ける手腕や、挟まれる人間ドラマなど、なかなか見応えがあった。

そしてやはり、最も描きたかったのは「戦争の不条理」だろう。対立する者同士だと思われた2人が、「戦争の不条理」に巻き込まれているだけだと知り共闘している様は、多少のプロパガンダ感はあるものの、やはり「戦争無き世界」を希求する想いに溢れていると感じた。

見方によるが、「フィクションだ」と思って見ればかなり楽しめる作品ではないかと思う。そして何よりも、「映画の撮影地や撮影スタッフが、今行われている戦争に影響を受けている」という事実が、作品内容と響き合い、なんとも言えない感覚をもたらす作品とも言える。
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