たく

劇場版 再会長江のたくのレビュー・感想・評価

劇場版 再会長江(2024年製作の映画)
3.9
中国を拠点に映像制作やインフルエンサーとして活躍する監督の竹内亮が、2011年にNHKの番組取材で訪れた長江沿いの旅程を10年後に辿り直すドキュメンタリー。なんと言っても監督の大らかでユーモア溢れる人柄が画面から溢れ出てて、観ていて自然と笑顔になった。時を経て失われたものと、新たに生まれたものが時代の変化を映し出し、それでも変わらぬ人の心にジーンと来た。弊害が指摘されることの多いSNSが、この10年で離れた人を繋ぐ役割を果たしてるのは感慨深い。

2011年の取材で果たせなかった長江源流の最初の一滴を撮影するため、監督の竹内亮のチームが上海をスタート地点として長江沿いに上流へ向かう旅に出発する。その過程で10年前に出会った人々に再会していく中で、変わらず船長を続けてる男性や、もうすぐなくなる仕事であろう旅行者の荷物運びをしてる高齢男性、ダム開発で村が水没したため別の地域に移住した女性など、会ったこともないのになんだか懐かしい気持ちになった。ダム開発で村が水没するのはまさに「長江哀歌」の世界だけど、本作では肯定的に描かれてたのが印象的。驚いたのは中国が環境問題に積極的に取り組んでることで、10年前に濁ってた長江の水が現在では澄んだ色をしてるところに、地球の環境汚染の元凶と思ってた中国に対するイメージが一変した。

源流に近づくほど少数民族が多くなってきて、女性が社会を支配するというちょっと信じられないような伝統を守るコミュニティが、実は時代を先取りしてたというのが興味深い。さらに上流に流れ流れて、冒頭で登場した本作の主役とも言えるシャングリラの少女ツームーとの再会が胸熱。彼女が民宿を開きたいという一途な夢を叶えてて、引っ込み思案の少女時代から想像もつかない成長っぷり。自由恋愛が許されず親の選んだ相手と結婚したツームーの、10年前に上海旅行をアテンドしてくれた日本人俳優がたぶん初恋相手だったと思わせる曇りのない涙に、「パスト・ライブス」とはまた違った切なさを感じた。

いよいよ長江の最初の一滴に近づいた時に、まさかの遭難の危機に見舞われ、そこで偶然通りがかった地元住民に救われるというのが奇跡みたいだった。この土地は水も空気も綺麗で、ツームーの住むシャングリラと共にこの聖域を冒してはならないと思った。ツームーが将来的にこの土地に民宿が乱立することを見越し、生き残り作戦を考えてるところに逞しさを見た。シャングリラを題材にした「失われた地平線」の映画化は、フランク・キャプラ版を遥か昔に観てたね。
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