デニロ

Cloud クラウドのデニロのネタバレレビュー・内容・結末

Cloud クラウド(2024年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

インターネットが出来る前にはイベントのチケットは赤木屋さんやら劇場やら球場に並んで購入したものだけど、いまや人気のあるイベントの一般販売は瞬時に売り切れてしまう。そんな馬鹿な、と思うのだけど、何やら特殊な仕組みを作って買い占める輩がいるようだ。それを転売する。販売することに関しては規制が入っているようだけど、いまだにそこそこ高価な価格での取引は続いているのです。

本作の主人公吉井良介/菅田将暉も自称転売屋。冒頭のシーン、40万円の医療機器30箱を1箱3千円で買い取る。そんなご無体な、という売り主殿山/赤堀雅秋を冷ややかに見返し、この9万円を受け取るのか否かを決めるのはあなただ、と9枚の1万円札を置く。

そして、その医療機器をラーテルというハンドルネームで1箱20万円でネット販売し、600万円の収入を得る。今回は当たりだったけれど、彼の場合こんなことは稀なのです。それは描かれている彼の生活を観ていれば分かります。普段はクリーニング工場でひっそりと働ている。狭いアパートに住み倹しい生活。時折恋人秋子/古川琴音が訪ねて来るのだけど、お互い興味があるのやらないのやら。ふたりで暮らそうか。駄目よここ狭いモン。

吉井は勤務先の社長滝本/荒川良々から、管理職になって欲しいと懇請される。いや、自分はその柄ではありませんと辞退するのだけれど、ま、とりあえず青年部長から云々と決められてしまう。めんどいなぁ。同じ転売屋で高専の先輩村岡/窪田正孝から、今立ち上げようとしているオークションサイトの目途がついた、お前も出資しないか100万円。でも、村岡のことを吉井はあまり信用していない。似たような境遇で、そんな奴に出資なんてできるものか。で、吉井は、この際転売屋を生業としようと計画を立てる。クリーニングの滝本に退職の意思を伝えて、滝本の怒りを買うがもう後戻りしない。わたしの人生わたしが決めます。秋子に、/仕事辞めた/どうするの/計画を話すと乗ってくる。都会から離れるけど、広くていい物件があるんだ。バスの車中でスマホで地図を見ているとと後ろの席からそれを覗き込む黒い影。

ここから黒沢清の自己模倣的なストーリー展開、演出が始まる。夜、吉井が自室に戻り窓から外を覗くと滝本が立っている。慌てて隠れるけど、滝本の足音が階段廊下に響いてチャイムが鳴る。何?なんなんだ!点けてもいない部屋の明かりが点く。慌てて消す。滝本の呼ぶ声。荒川良々が怖い。

群馬の湖の側に倉庫スペースも十分な一軒家を借り、秋子と共に生活を始める。

佐野君/奥平大兼という地元の青年を雑務の手伝いとして雇い、吉井は一獲千金の情報収集に余念ない。佐野君はそんな吉井の姿に憧れを感じて、わたしも仕事を覚えたいと志願する。暫らく曖昧に彼のことを描いていて観客を戸惑わせるのはお手の物。更に、秋子をも謎めかしたりして含みを持たせる。

予告篇では、菅田将暉が何者かに追われるシーンがメインになっていて、それはどういうことなんだろうとわたしは話を追っていたのですが、ここからは闇サイト。吉井に遺恨を持つ者見知らぬ者たちが襲い掛かる。或いはストレス解消に加わる云々。

佐野君が突然現れて吉井を助け出すのですが、謎です。組織に戻った方がいいんじゃないの、と調達屋/松重豊に拳銃を渡されながら諭されるが、何!組織って?銃撃戦で無表情に殺戮した相手の死骸も掃除屋に始末させるという。何処かの国のマフィアなんだろうか。

そんな終盤はボルテージが下がり、だいぶん飽きて来た。脚本監督としての黒沢清は頂きを極めてしまっている感がある。これから先は脚本を提供したり、他の脚本家の作品を演出したり、そんな作品を観てみたい。そこからまた別の頂が見えて来るのではなかろうか。

菅田将暉は食傷気味だったんだけど、本作のやさぐれた静かな感じはなかなか良かった。
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