転売ヤーが主人公ってのが今っぽい気もするけど、スタバの限定商品が欲しい人の手に渡らないとか、ポケモンカードが高騰して大変とか、そういうのが落ち着いた今になってみると、2024年公開の映画の題材としてはちょっと旬が過ぎた感はある。
映画は、企画が立ち上がってから劇場公開までにいくつもの工程があり、大きなプロジェクトであるほど時間を要する。日常が目まぐるしく移ろってく現代社会を風刺するには、やや後手にまわりがちなコンテンツだなぁと…。
それに、転売する商品が変。誰がそれ欲しいん?小さい工場で作っている怪しい医療器具とか、いつの時代やねんってくらい個性のない美少女フィギュアとか、まったくもって現実味のないモノばかりでした。オジサンがネットニュースを読んで「こんなもんやろ」って考えた感じのクオリティ。昭和感がすごい。
変な世界だけれど、そこは黒沢清。演出で魅せる。荒川良々が、夜中アパートに訪ねてくるところはドキドキしたし、日本が舞台なのに安っぽくも嘘っぽくもないガンアクション描写も新鮮。日本でサイコスリラーは、やるとしたらこう。日本で銃撃戦は、やるとしたらこう。黒沢清のオレ流映画の作り方は、バカリズムのフリップ芸みたいな納得感がある。
菅田将暉の役は、小器用で小賢しくて、そこそこ徹底できるタイプ。転売ヤーに向いているんだと思う。恨みを買った奴らから襲撃を受け死ぬような怖い思いをするのに、やっぱり商品やパソコンが大事だったりして、現場に戻ったりしてしまう。菅田の演技力も相まって、ピンチのたびにキャラクターへの共感が生じそうになるのだけれど、毎回すっげえ丁寧に突き放されて感情の置き所がわからなくなってくる。
物質的な取引のなかで、そんなケチな抜け穴を探したってたかが知れてると思いますけどね。真っ当な仕事で稼ぐって、けっこういいものだと思いますよ。
転売ヤー菅田将暉が付き合ってる彼女が、いろいろ欲しがるわりにモノの価値がわからない女ってのが、最悪に皮肉がきいてたなと。コーヒーミルの使い方を調べることもしない奴。僕、こーゆー女きらーい。
普段から派手めな格好して「金の切れ目が縁の切れ目よ」って顔して生きてりゃいいのに、なんか素朴な幸せを望んでますってツラして景気のいい奴に近づいてくるタチ悪い系。
菅田は、大当てする前は普通のお仕事で働いてたり、利益の出ない商品は損切りしたりと、手堅い考え方もできる人であろうに、こんなのと付き合っててかわいそうと思ったら、案の定な結末が待っていて納得した。みーんな、頭おかしかったんですね。みんなズレてるから、些細なズレに気づけなかった。そういう解釈でいいでしょうか?
若手演技派筆頭な雰囲気のある菅田将暉をはじめ、窪田正孝、岡山天音、奥平大兼など、旬の俳優を呼んできといて、大衆向けメジャー作品かのような座組でこういう変なものを作るのも、もはや黒沢清のライフワークになりつつある。
菅田将暉の顔が、だんだん黒沢清に似てくるのが面白かった。なんか似てる。四角い輪郭に髭の感じとか、逆ハの字に眉毛のくっと上がった感じとか。書籍等で監督の顔を見すぎているせいかもしれない。