このレビューはネタバレを含みます
東北地方で漫画家を目指す一人の少女と、絵が上手くなりたい一人の引きこもりの少女が、中学校卒業を契機に切磋琢磨しながら漫画の懸賞に応募する。
彼女らの漫画は佳作となり、順風満帆な生活を送る。そして、18歳を転機として漫画家として連載の話が持ち上がる。
だが、彼女らは別々の目的があった。
背景を専門に描いていた少女は美術学校に通い、絵が上手くなりたがっていた。そして2人は別れてそれぞれの道を歩むことになる。
漫画家の道に進んだ少女は次々と巻数を伸ばし、住んでいる家も徐々に大きくなっていった。
そして事件は起こる。
美術学校に一人の男が入り込み、12名の死傷者を出しながら次々に学生たちに襲いかかったのである。
背景を専門に描いていた少女はその事件に巻き込まれ、亡くなってしまったのだった。
世界はあらゆる選択肢の中で成り立っている。
もし、引きこもりの子の家に卒業証書を持っていかなかったら。
もし、引きこもりの子の家で4コマ漫画を描いていなかったら。
もし、引きこもりの子の部屋に4コマ漫画が入らなかったら。
あらゆる可能性がある。
だが、その結果として迎えた死は「漫画家にならなかった世界線」を選んでいれば起こらなかったかもしれない。(「美術館で死なない」シチュエーションは、奇跡的に空手を習い続けた少女が、奇跡的に男が襲いかかるところに通りかかり、奇跡的に飛び蹴りが間に合い、奇跡的にそれにより犯人がヤラれる必要がある。)
それはまさに結果論でしかない。
おそらく絵の上手くなりたかった少女は誰と出会おうと、出会わなくとも美大を目指しただろう。それにより亡くなってしまう可能性は、誰と出会おうと変わらないのだ。
その意味で「私と出会わなければ死ぬことはなかった」なんてことを考える必要は全くの皆無だ。
この物語は悲劇の中、成年になった漫画家の女性が改めて連載を再開する「再生の物語」だ。