花俟良王

『越後奥三面―山に生かされた日々』デジタルリマスター版の花俟良王のレビュー・感想・評価

4.0
映画としての間口は狭いが見応えはあった。

そもそも映画は「記録」をするものだが、「ダムの底に消えいく生活を残す」という確固とした想いのもと密着したものはやはり強度が違う。朴訥なナレーションもいい。

40年前の映像という微妙な過去との距離が個人的には刺さった。もっと過去なら「資料」的に見たかもしれない。自分も既に生まれている時代。画面の中の大半の大人たち、犬や猫もこの世を去っているだろう。しかし子供たちは順調に行けばまだまだ元気に暮らしているだろう。この近過去感の中で繰り広げられる(当時でも前時代的な)自然との共存。

熊親子を狩るが山の神に「戒律を守る」と誓う男衆。学校は「ゼンマイ休暇」を出し、現金収入源となるゼンマイを家族総出で採る。季節折々の作業をテキパキこなす女衆。今はいない彼らを四年に渡り撮影したクルーの目的はただひとつ。

この生活を「未来に残すため」だ。

被写体の想いと撮影者の想い。二つが色褪せることなく息づいており、ある種の霊的な包容力をもって私を包み込んでくる気がした。
花俟良王

花俟良王