netfilms

八犬伝のnetfilmsのレビュー・感想・評価

八犬伝(2024年製作の映画)
3.8
 18世紀当時と今では時代は違うが、それでも28年という歳月をかけたという事実は察するに余りある。江戸の人気作家・滝沢馬琴(役所広司)は、構想中である『八犬伝』の物語について、友人である絵師・葛飾北斎(内野聖陽)に語っていく。それは、里見家の呪いを解くため、八つの珠を持つ若き八人の剣士たちが運命に引き寄せられるように集まり、壮絶な戦いの旅に出るという物語だった。奇想天外な物語は北斎をはじめ巷の人々を魅了し、異例の長期連載となるが、終盤にさしかかった頃、ある理由からパタッと筆が止まる。最初は役所広司の極太眉毛が妙に気になったが、途中からまったく気にならなくなった。思った以上の力作である。葛飾北斎の興味を得て、滝沢馬琴が口ずさむ物語は映画としては禁忌の叙述形式なのだが、幕間に妙味がある。

 家族の事情を抱えながら、当代きっての人気作家である滝沢馬琴は悠々と歩を進める。彼の中の正義という軸が、文字通り困難な人生を切り開いていく。中盤の中村獅童と尾上右近の歌舞伎の場面は今作の目玉とも呼ぶべき名場面から、鶴屋南北役が立川談春だと知り、驚いた。あの中盤の描写は今作屈指の名場面に他ならない。登場する八人の剣士たちのこの人誰なの?感は否めないが、中盤の歌舞伎ほどではないが、きっちりと作劇的に仕上げている。然し乍ら今作が虚のフィクショナルな物語よりも実となるベストセラー作家を支えた家族の物語としての純度の高い映画として寄与する。滝沢馬琴の妻だったお百(寺島しのぶ)のぼやきが痛快で、彼女が馬琴に日々の生活の恨みつらみを論っているだけの人物とは私には到底思えない。だから息子・宗伯(磯村勇斗)による父親擁護の声こそが母親にとっては一番辛かったような気さえしてくる。終盤の息子の嫁の美談の裏で、廊下を這いずり回った狂気のお百の姿こそが、監督の曽利文彦による目論見だったように思えてならない。
netfilms

netfilms