イカれ狂った映画だった。嫌いじゃないけど、後半とにかく気持ち悪くて「正視に耐えない」みたいな感じになる。その「気持ち悪さ」はかなり苦手だったなぁ。「ストップモーションアニメを制作している女性が、ストップモーションアニメのストーリーになぞらえるかのように現実が侵食され、狂っていってしまう」という設定・展開・構成はなかなか良かったので、「気持ち悪さ」の分減点、という感じの評価と言えるだろうか。
というわけで、まずはざっと内容の紹介をしよう。
エラは、ストップモーションアニメの制作を行っている。正確に言えば、ストップモーションアニメの制作を手伝っている、のだが。母が偉大なストップモーション・アニメーターであり、その世界では伝説的な存在なのだが、彼女は高齢で、恐らく職業病なのだろう、手に関節炎を患っている。そのため、母は自分では、人形たちを動かすことが出来ないのだ。そのため、娘のエラに人形の動かし方を指示する形で「最後の作品」を完成させようとしている。
そんな環境で育ったエラは当然、ストップモーションアニメが好きだし得意なのだが、ただ彼女には致命的な欠点があった。アイデアが浮かばないのだ。ストップモーションアニメのストーリーを考えようと思っても、何も出てこない。母親に「私のアイデアも活かせると思う」と言ってはみたものの、いざ深堀りされると何も出てこないし、恋人のトムから「自分の映画を作りたいと思わないの?」と聞かれても、上手く答えられない。
そんなある日のこと。ストップモーションアニメの制作中に母が脳卒中で倒れて、意識不明のまま入院することになってしまった。アニメ制作に根詰めすぎている様子を見ていたトムは、「しばらく家に戻るな」とアニメ制作から遠ざけようとしたのだが、やはり彼女は「母親の作品を完成させないと」という気持ちが強くなる。そこで、トムの紹介で、住人のほとんどが退去したアパートの一室にスタジオを構えることにした。自宅にあったアニメ制作に必要なものと、さらにベッドを運び込んで、母親の作品を完成させるつもりだ。
しかしやはり、アイデアが浮かばない欠点がつきまとう。母親の指示がなければ、どうしたらいいのか全然分からないのだ。そんな折、住民がいないはずの建物で、1人の少女と出会う。少女はストップモーションアニメに興味を持ち、そして「私の話でアニメを作ってよ」と言い始める。エラは母親の作品を完成させるためにここにいるわけで、そんな提案一蹴すべきだったのだが、エラはやはり「誰かに指示されること」に親しんでしまっていた。何の関係もない少女が語る物語を、言われるがままに作り始めるのだ。
最初こそ、良き共同制作者として2人のアニメ制作は順調に思えたのだが……。
今ここで説明したのは、「内容紹介」というか「設定紹介」みたいなもので、ここからストーリーはどんどん歪んでいくことになる。その歪み方を説明するのはなかなか難しく、「幻覚」「夢」「妄想」「現実」「アニメのストーリー」などが入り混じり、何が何だか分からなくなる。しかも途中までは、「これは夢だろう」「これは妄想だろう」みたいなことがなんとなく分かるようになっているが、後半に行けば行くほど、「これは幻覚なのか? それもとも現実なのか?」みたいに感じさせる展開になっていき、わけが分からない。まあ、わけが分からないだけならいいのだけど、とにかく「気持ち悪い」ので、後半になればなるほどちょっと受け付けない感が増してしまう。
ただ、「気持ち悪さ」を除けば、なかなか挑発的で狂気的な、どことなしに惹きつける何かを持つ作品という感じがした。そしてそこには、エラと少女が有する、それぞれに独特の「特異さ」みたいなものが関係しているのだと思う。
エラは、先ほども少し触れたが、「指示される方がしっくりくる人」なのだと思う。いや、本人の自覚がそうなのかはよく分からない。彼女は、自分では思いつかないストーリーを教えてくれる少女が、このアニメ映画を「私の物語」と口にする度に、「これは私の映画だ」と反論する。恐らくだが、意識レベルでは「自らの意思で前進していきたい」と思っているのだと思う。ただ、無意識レベルでは「常に誰かの指示を待っている」みたいな感じではないかという気がしている。
象徴的だったのが、母親のエラの呼び方だ。母親は娘のことを「パペット」と呼んでいたのだ。字幕ではこの「パペット」の部分が「お人形さん」だった気がするのだけど(正確には覚えていない)、「パペット」というのは「操り人形」の総称である。母親としては恐らく、「自分の『手』となってストップモーションアニメの制作を行っている状況」を指して「パペット」という呼び方をしていたんじゃないかと思うのだが、結果的にそれは、エラの性格の本質を衝いていたというわけだ。
そしてそんな色眼鏡で見ると、トムとの関係性にもそんな雰囲気が見て取れるように思う。いや、それは正直あまり覚えていないのだけど、いずれにしても、彼女の「指示されたい」という無意識レベルの欲求が本作で描かれる状況を招いたと言っていいのだろうと思う。
一方、少女の方はというと、こちらもまた謎の存在なのだが、まるで母親のように、エラに対してかなり支配的に指示を出してくる。そんな少女の命令を諾々と受け入れる背景には、「『指示されたい』と思っている」というだけではない何かがありそうなのだけど、それはよく分からない。例えば、この少女はエラの分身のような存在であるとか、実は母親の子どもの頃の姿であるなどである。ただ、少なくとも僕には、そういう「少女の正体」が明らかになるようなヒント的な要素はなかったように思うので、なんとも言えない。
普通なら出会うことも関わることもないだろうそんな2人が、「ストップモーションアニメ」という特殊な媒介を通じて接点を持つという展開が、まずなかなか興味深い。さらに、少女のストーリーを元に制作されるストップモーションアニメが、次第に現実に侵食していき、収集がつかない状態になっていくというわけだ。まあ、あとは観てもらうしかない。
最後に。これは意図的な描写なのかよく分からなかったのだが、作中で「night」の文字が「nifht」になっている箇所があった。ストップモーションアニメ制作の過程で、シーン毎の名前を付けて管理しているのだが、「第3夜」と字幕で表示された時に打ち込まれていた英語が「nifht」だったのだ。単なるミスなのかもしれないけど、そんなことあるかなぁ。何か意味があるなら教えてほしい。
というわけで、メチャクチャ良かったわけでもメチャクチャ悪かったわけでもない感じで、後半の「気持ち悪さ」がホントにちょっと苦手だった。