ゾーイサルダナがオスカー獲ったこと以外は一切情報入れずに行ったので、オープニングからエキセントリックでめっちゃすげえやんメキシコの新人作家かな?新世代!とか思って上映後調べたらジャックオディアール御大だった。愚かすぎ。
トランスジェンダーを主軸に据えつつ、より普遍的なフェミニズム、貧困と裏社会、そこからの更生とマスキュリズム…重ためのテーマをいくつも扱いつつミュージカルとしてパッキングしてしまうという…。
いくらでも長くなってしまいそうな内容を、コンパクトな歌唱シーンと合わせてテンポよく繋いでいく手腕。重厚さを保ちつつこの時間にまとめたのはすごいしえらい。
女性性を獲得した(という表現は良くないのかもしれないが)エミリアが慈善事業に突っ走っていく様を見ている間、「本心ではなかったかもしれないけど、そもそもこいつがいま対峙している悪そのものだったよな」という思いが常に付き纏う。
その点、観る側が十分感じるようには作られてると思うけど、リタが疑念を抱くような描写が少しくらいあってもよかったかもしれないなとも思った。弁護士という点ではベターコールソウルだけど、葛藤がないに等しい辺りはブレイキングバッドなのか。
普段からラテンアメリカンのアーティストをよく聴くけれど、結局スペイン語の響きが一番好きなのかもしれない。
(特にリン=マニュエル・ミランダ以降に生きる俺たちにとっては)セリフがリズムに乗り始める瞬間の気持ち良さこそがミュージカルの醍醐味の一つだと思うので、その点でも今作は抜群に良かった。
もう少しラテンミュージックに寄っててもよかったのではとも思いつつ、あくまでクラシックなミュージカル調でやることで際立つものがあるんだろうというのも容易に想像がつく。
カラックス『アネット』的なチグハグの心地良さ。
普通の劇映画としても、細かいサスペンスの作り方が上手くて結構常にドキドキしながら楽しく観れる。
人は選ぶかもしれないけど、個人的には今ミュージカルを観るならウィキッドよりも断然こっちをおすすめしたい。てことで是非(?)。