せいか

狼の血族のせいかのネタバレレビュー・内容・結末

狼の血族(1984年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

5/2、円盤で視聴。原作未読。☆は0.5くらい。0ではないかな……。

ざっくり言えば赤頭巾×狼男×不思議の国のアリス的な感じ? アリスというか、夢の世界で何か意味深長にフワフワした世界をゆく感じで一種のおとぎ話的なのだが、主人公の名前がアリスなのでそう連想して間違いではないだろう。何であれ拡大解釈あかずきんちゃん。
それこそセリフも映像も最初から最後までみっちり余すことなく象徴を練り込みながら話は展開するが(いちいち書き出せばきりがないがいかんせんとかく露骨なのやら、どこかで停止してもいくつも挙げられるくらい出ずっぱりに何かがあるので辟易するくらいというか。夢の世界を描くのだからそうなるのかもしれんけど)、要は特に少女(ロリコンといってもいいのかもしれない)とフェミニズムとその危機と受け入れやら憧れやらを描いたもの。狼も子羊も同じ所で共存して生きているのじゃ、獣はいるものなのじゃ、狼の世界と人間の世界は隔てられはしないのじゃみたいな。
また、少年が男になること、男性性ということなども同時に描いている。つまるところ特に人間の性を中心にしたものを描いているといえる。劇中劇では女も狼(獣)であること、すべては虚飾であることも表現される。

狼が観たくて観ただけなのだが、肝心の狼役がいかにも賢そうな犬ちゃんたちでただの安心安全モフモフパラダイスが露骨であった。かわいかった。
狼退治のときや劇中劇の村の中に侵入した一匹の雌狼のくだりで出た狼はちょっと狼っぽく見えたがどうなのやら?

主人公はいかにも裕福そうな豊かな様子の屋敷に住む少女で、たぶん自室というよりも秘密基地的に使っているのだろう、屋敷の中でも物置的に煤けた中にある屋根裏部屋の中の一室(玩具箱の中にいるような部屋)で眠っている。帰宅した両親に頼まれて不仲な姉が嫌々起こしに来るが鍵をかけているので部屋には入れず、主人公も起きはしない。主人公の顔には幼さのまだ残る少女には不釣り合いに見える程度には化粧しているらしい様子が露骨に浮かんでいる。
そして部屋の中の玩具たちが不気味に登場する夢の中では小憎たらしい姉は寝間着のような姿のままでそういったものに森で追われ、無数の狼にも追われ、殺されてしまう。この中でもネズミだのフクロウだのと不穏なモチーフも出たり、巨大なキノコが複数生えていたり、何よりも狼に襲われるというところから、エロチシズムと死が露骨に表現されている。
……と、ここまでがおおよその冒頭描写なのだが、とにかく最初からここまで象徴の取り入れ方が露骨すぎるくらいなのでこの時点でなんかもうやりたいこと読めるのもあってだるくなるし、その読みを外すことも全くなく終わるので、なんというか疲れた。

以降は引き続き少女の夢の話で、そこはことなく中世的またはおとぎ話的世界観で姉の葬儀が営まれ、姉のロザリオを譲り受けて主人公は森の中の祖母の家に預けられることになって共にそこへ帰る。この中でもこれでもかーと象徴に次ぐ象徴がとかく露骨に出てくる。死、エロ、そして新たにアダムとイブ的なモチーフがnewみたいな。ついでに親の不在も重要である。
そして狼の話がされる。いわく、狼はいろんな形をとるものでというこの後登場する狼男の話をするのだが、言わずもがなこれもそもそもさっきからしつこく繰り返されている象徴の塊であるわけである。
ちなみに姉は普通の狼に襲われただけだから天国へ行けるが、悪い狼は腹の中まで黒いから食べた相手を地獄へ引きずり込むのだとか。とにかくほんとにしつこいくらいこの上なく簡明に象徴をごりごり押してくる。

劇中劇としてお祖母さんが孫に狼男の話をするのだが、変身方法が生皮を剥いでグロテスクに筋肉がむき出しになったところで狼に変じるというものだった。ちなみに狼男というよりは普通の狼の姿に近い。このへんも一皮むければ……とかそういうものだろう。この狼男は首を切断されてミルク桶の中に落ちるのだが(浮かんでくると人間の頭に戻っている)こういうところもいちいち性的な暗喩が露骨である。とにかく露骨なのである……。
  → ほかのシーンではどんどん毛むくじゃらになって狼に変ずるパターンと、どんどん毛むくじゃらになって口から飛び出すのを最初に外皮を破って生まれるようにしてメリメリと狼が出てくるパターンとがある。特に後者の表現がまた露骨である。
そしてお祖母さんは普通の男も女を我がものにするとそれまでは優しくともぞんざいな扱いをするものよというようなことも言っていてとにかく露骨なのである……。男は狼なのよ気をつけなさいなのである。というかこの描写経緯だともう無差別に男そのものに近づかないにこしたことはないという意味になりそうな気もするけれど、ざっくり赤頭巾のテーマを踏襲しているわけである。
それはさておき、この劇中劇で周辺が狼の害を被っていたのに女の家には不思議と害はなかったって、民話とかの定石で言えばむしろこれは狼(正体は知られない状態で女の前夫だった)のマーキングがあったので守られてたようなもので、それを故意にやってるのでなければむしろここで狼の存在へ肯定的に捉えられるべきのような気がするので何が「悪い」なのかよく分からないのだけど、初夜に突然(狼男になりそうになったので)姿をくらましてそのまま数年音沙汰ない間に結婚して子供も産んでいた女が操を立ててなかった罪に対して元夫は襲いかかったのだろうけど、なんかこうフワフワしているなとおも……も……。そのあとに夢の中の主人公が親のセックスを目撃して、おかんに直裁に訊ね、女は男の中の獣が好きなときもあるのよというやり取りもあるのだが。

またお祖母さん伝いの話でどういう男が(本作における狼的な意味で)悪に染まるのかというのも重ねてされるわけだが、ここでそういうものになる少年が森の中で悪魔のようなものと出会って薬をもらい、胸に塗ると胸毛が生えてきて少年は顔をゆがませてこれを拒絶するというのも出てきたけれど、フェミニズム色の強い本作、ただ少女が性的に大人になることみたいなこと以外に少年が性的に男になることにも触れてるのは面白いなあと思った。中性的だった子供が性徴期を経て否応なく変じてしまう。男と女の身体になってしまう(そしてしまいには獣になるわけだが)。しつこいくらいの描写のうちの一つだが、ちょっと心に引っかかった次第である。

あかずきんでおなじみのとおりお使いでお祖母さんの家へという描写もあるのだけど、思いのほかばあちゃん奮闘していてなかなか手に汗握った。
ワンパンで頭ぶっ飛んで灰は灰に状態に木っ端みじんになってたけど。
ここで猟師に変じていた狼男は紆余曲折あって女である主人公に武力行使で拒絶されるとおさえがきかなくなって狼の本性を露わにするのだが、手負いの彼を置いて外にいた狼たちは去っていき、群れからあぶれて独りとなった狼を彼女は今度は慰めてやる。こういうとこも暗に示す表現がまた露骨である。
ここで彼女は狼女の話をし(こちらは迫害されて群から離れた狼が牧師の手当を受けて回復して狼の世界に帰る一件無害なものであるが、白いバラが涙を受けて赤く染まっているので、表現するところは村のあぶれものが姦通させられて獣の世界にのみ留まるしかもはや許されなかったというものでお察しである)

しまいには主人公も狼に変じ、村の人々や親、自分を好いていた少年に目撃されながら猟師だった狼と共に森を駆け抜け、冒頭で姉が追われていた場所を駆け抜け、狼たちの群れに混じってそれでも駆けていく。
狼たちは少女の現実世界の屋敷(廃墟同然に自然に飲み込まれている)の中に侵入して一目散に屋根裏へと駆け上がり、飛び起きた彼女は窓を突き破って侵入してくる一匹犬に向かって叫ぶ。
現実世界にも夢の世界がなだれ込んだとみればいいのだろうけど、言うまでもなく少女はだいたいそもそもそういう世界を生きることになるので、そういうことなんだろうけど、現実的にいえば、冒頭で出ていた飼い犬(これも少女がいる部屋の前で入りたそうにしていた)がどういうわけか屋根裏の窓を突き破ってきただけともいえるけど知らん。犬だか狼だかの姿で映されただけで男なのかもしれないし。まあどれでもあっても可みたいな、結局は言い表すところは同じみたいな。

エンディングロールでは少女に対する教訓が幾つか上げられ、狼に気をつけましょうねという感じで終わる。

なんというかいろいろおもろげなところはあったが、ほんとに開始10分で読めたものをほぼ忠実になぞられただけだった。エンディングの音楽もそこはかとなくそこはかとなく退廃的でエロチシズムで空疎なロココ的な(劇中劇でも登場人物たちがロココな服装に身を包んでいるシーンもある)ものであったりする。

なんていうかほんとずっと露骨な映画だった。むしろそこにびっくりした。
せいか

せいか