まずこれだけは最初に書いておくが最高でしたね。その割にはスコアはそこそこくらいじゃんと言われたら、いやそれはそれでこれはこれ、としか返せないのだが、何にせよ本作『ボルテスV レガシー』は最高の映画でしたよ。
本作はフィリピン映画なのだが『ボルテスV』自体は1977年に長浜忠夫監督によって作られた作品で正式名称は『超電磁マシーン ボルテスV』である。これは前番組の『超電磁ロボ コン・バトラーV』のヒットを受けて作られたロボットアニメだが、まぁ一言で言ってしまえばポピー(現バンダイ)がスポンサーを務める要はロボットの玩具を売るための番組である。いわゆる長浜ロマンロボ3部作の2作目ですな。流石に『機動戦士ガンダム』なんかと比べたらマイナー作品ではあろうが、日本のアニメ史とまではいかなくともロボアニメ史を語る上では絶対に外せない一本であろう。本作『ボルテスV レガシー』はそれのフィリピン版実写リメイクというわけである。
と、大方の概要を説明してみたが、正直俺自身オリジナル版の『ボルテスV』は全話通しで見たことはなくて地方局の再放送でやってたのを飛ばし飛ばしで見ていたのとテレビゲームの『スパロボ』シリーズでちょっとだけ知っているという程度のにわかファンである。なのでそこまで思い入れとかがあるわけではないのだが、最初に書いたように本作は最高でしたよ。何が最高かって言うとまぁ、上記したように直撃世代かロボアニメ好きでもなければ多くの人は知らないであろうアニメ作品が何故かフィリピンで猛烈な原作愛をもってして実写リメイクされたというその現象そのものが最高だとしか言えないですね。
フィリピンで『ボルテスV』が異常なほどの人気を博していて、日本で言えば『サザエさん』や『ドラえもん』や『ちびまる子ちゃん』的な正に国民的アニメという地位にあるというのはネットのオタクコミュニティの間では結構有名な話で、俺も大分前から知ってはいた。ちなみに俺の友人(ロボアニメオタク)が7~8年ほど前にフィリピンに3年くらい海外出張に行っていたのだが、実際現地では老若男女問わずにほとんどの人間がボルテス・トークができたし、余裕で彼よりも詳しく作品を読み込んでいたらしい。
なんかそういうのいいよなー、って思うんですよね。これまた個人的な昔話だが、フィリピン出張に行った友人とは別の友人と一緒に当時俺がバイトしてた居酒屋で飲んだことがあるんだけどその友人というのはその頃ネット上で流行っていた嫌韓ブームに毒されて韓国や中国を敵視していたところがあったんですね。んで俺のバイト先の居酒屋には中国人留学生がいたんですよ。じゃ、そこで喧嘩でも繰り広げたのかというとそうじゃなくて二人とも三国志マニア(俺も好きだが)なのもあってその話題で盛り上がったことがあったんですよね。その頃に連載が佳境だった『蒼天航路』での曹操像とかについて話した記憶がある。んで、それがどう『ボルテスV』に繋がるのかというと、文化というとやや大げさだがエンターテインメント、もっと砕けて言えば面白いものっていうのは個人の主義や思想や政治的信条なんかをスイッと軽やかに越えていってしまうところがあって、そういうのいいよなって思うんですよ。
フィリピンで『ボルテスV』が訳わからんくらいにウケて、日本でのテレビ放送から50年近く経って全90話近くの実写ドラマが作られてその冒頭部分が映画としてまとめられて原作アニメが生まれた国である日本でも上映されるってのは、何か感動的だよなって思うんですよね。だからもう繰り返しになるが、最高だなって言うしかないですよ。
ちなみに映画のストーリー自体は作品全体の触りもいいところで、冒頭数話分のエピソードしかないので導入編もいいところだから所謂「俺たちの戦いはこれからだ!」で終わる。内容としても何か宇宙人が地球に侵攻してきたから巨大合体ロボで迎え撃ったというそれだけである。
だから内容は語るほどのものではないし、作中とかの演出も、これはちょっと、う〜む、と思うところもないではないのだがそんなもんは問題ではないというか、これだけの情熱を突き付けられるとボルテス後進国たる我々がアレほどの情熱をかけて実写化をすることは無理だろうなと思ってしまうので50年物時を経て良くこの企画をやってくれたなと言う他ないのである。
だって中身は当時のロボアニメの空気感まんまだもん。すごいよそれは。日本でもハリウッドでもいいけど古いアニメや漫画をリメイクするときとかってさ、当時のデザインとかは今風に変えたりするじゃないですか。衣装とか小道具のデザインもそうだし、本作なら主役たるロボのデザインとかも工学的に無理があるとかリアリティを出すためにこの箇所は変更しようとか。でも本作はそういうの無いからね。もう、まんまですよ。必殺技は叫ぶし登場人物が死ぬときの演出はクドイし超電磁ゴマもちゃんとやるし、絶対にオミットしてもいいだろ! っていう岡めぐみ(英語名になっていたが忘れた)の甲賀忍者設定もちゃんと拾ってるしでもう原作愛に溢れすぎてるんですよ。正直、バカなんじゃねーの、とも思っちゃうけどここまでやられたら凄いと言う他ないし、そこまでさせる文化としてのエンタメの力ってやつには何ていうかちょっと救われたような気にさえなってしまうんですよね。
それを感じることができるっていうのは映画として十分な魅力だと思いますよ。このフィリピンの熱い想いに応えるためには我々は数十億規模の予算でアンサーとして『コンバトラーV』を実写化すべきではないだろうかと思うだが、そういう企画はないのでしょうか。個人的には実写で南原ちずるを演じられる役者なんていないだろうと思っちゃうから難しいと思うが!
ま、ぶっちゃけ映画としてそこまで面白い作品ではないのでスコア的には3.5となっているが、気持ち的には4.0くらい付けたかったなという、なんかこうグッとくる映画でしたよ。面白いとかつまんないとかじゃないんだよ! グッとくるんだよ! グッと!