このレビューはネタバレを含みます
“なりたい自分に絶対なる、夢追う女性への応援コメディ”
のんが伊丹十三賞を受賞した際の、故伊丹十三夫人、宮本信子のコメントを思い出した。
“私、映画監督になりたくて、もう何本か脚本を書いてるんです。”
NHK朝ドラのヒロイン、新人の女の子(当時20歳)の言葉に驚き、”ただ者では無い”能年玲奈を感じたという。
それから約10年、彼女は脚本、監督、主演を果たし、映画賞も受賞し、夢の一部を実現。
ただ、そこに至るまでの挫折や芸能界特有のイジメには、驚くばかりだ。
彼女は事務所から独立する際に、能年玲奈という芸名は事務所に帰属するため、使用禁止にされた。(本名であるにもかかわらず)
“のん”への芸名変更は、彼女の意思ではなかった。
同時に、TV界からは干された。
よくある話らしいが、あまりにも馬鹿げている。
彼女を救ったのは、勿論、彼女自身の才能とバイタリティ、そして”映画界”と彼女を応援する人達であろう。
そんな”のん”の10年間は、正に本作の中島加代子の生き様そのものではないか?
“私にふさわしい映画”だ。
新人賞を取りながら文壇のイジメにあい、2度もペンネームを変えての挑戦。
なりふり構わず、利用出来る人や物は全て利用し、夢を叶える努力をする。
とてつもなく痛快なコメディでありながら、体当たり下克上成り上がりストーリーだ。
そして、加代子(のん)のあらゆる魅力は、敵である東十条宗典(滝藤賢一)とコンビを組むことで、最大限に引き出される。
この2人、対局にいるようで、実は似た者同士かもしれない。
笑いあり、涙あり、オーバーアクションあり、昭和歌謡の歌唱あり、着せ替え人形の様に楽しい、のんのファッションあり、であっと言う前にクライマックスに至る。
堤幸彦ワールドは、80年代昭和レトロの世界でも健在だった。
配役のうまさも成功の重要な要素だが、本作で最も際立っているのが、カリスマ書店員、須藤(橋本愛)の存在。
短い時間で事態を急展開させ、加代子再再生のきっかけを作る役割り。
ノーブルな美しさで生真面目な役が似合う彼女が、真面目に演じれば演じるほど、その存在が際立つ。
たんぽぽ畑の中に、一本だけ白百合がスッと立っている感じ。
サクセスコメディの王道の中に、何が何でも夢を叶える”女の意地”が美しく楽しく描かれている。