1900年代、オーストリアのアルプス。渓谷にある遠い親戚のクランツシュトッカーが運営する農場に引き取られた孤児の少年で、労働力としか見ない彼の下で厳しい生活を送るアンドレアス・エッガー。支えだった老婆のアーンルが亡くなった事で引き留めるもののなくなった彼が激動の時代の中で過ごした生涯の足跡を描いたドラマ映画です。
先天性の視覚障害を持つオーストリア人作家で俳優としても活動するローベルト・ゼーターラーが執筆して世界各国で発行されるベストセラーをスイス出身のハンス・シュタインビッヒラー監督で映画化した2023年公開作品で、80年に渡る生涯を捉えた作風が高く評価されて制作国であるドイツやオーストリアの映画賞にノミネートされました。
小説原作で雄大な山脈を背景に生き様を描いてカンヌ国際映画祭審査員賞受賞の『帰れない山』を彷彿とさせる一方、レトリックでなく時代背景を掘り下げることで深みを演出します。スケールの大きさに対してやや淡々としてドライさを感じるところはありますが、人生を通して土地と人というアイデンティティを形作るものを綴る一作です。