よっしー

ザ・ルーム・ネクスト・ドアのよっしーのレビュー・感想・評価

3.8
「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」

第81回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した作品。ペドロ・アルモドバルらしい色彩豊かな舞台セットと衣装、そしてティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアの2大女優を用いて、安楽死を選んだ癌終末期患者を描く。

冒頭、サイン会のシーンから始まり、そこへ訪れた友人から共通の友人が癌で闘病していることを知らされる。何の変哲もない冒頭のシーンだが、不思議と心惹かれた。

久しぶりの友人との再会では語るべきことが多く、10代の時に妊娠した娘との関係や、その娘の父親との関係と別れなど、さまざまなことを聞かされる。ジュリアン・ムーア演じるイングリッドは、自ら語ることは少なく、ティルダ・スウィントン演じるマーサの話に耳を傾ける姿が印象的だ。

芸術作品に多く触れてきたのであろう2人のキャラクターの対話は非常に静かだが、心の内ではさまざまな感情を感じ取ることができる。これは役者の演技力のおかげに他ならない。本当に素晴らしい演技だった。

本作は安楽死をテーマにしているので、その可否を問うような内容になっているのかと思ったが、個人的にはあまりそのような作風には感じなかった。死の受容よりも、今ある生(性)を全力で受け止める、いわば人生讃歌の映画だと感じた。

ただし、その一方で、宗教的に安楽死(自殺)を受け入れられないキャラクターが悪として描かれている点は見逃せない。結局、自分自身の生き方を決めるのは、その人自身でしかないのかもしれない。

また、バスター・キートンの『セブン・チャンス』と、ジェイムズ・ジョイス原作、ジョン・ヒューストン監督の『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』について作中で触れられており、後者は作品の中で重要な役割を担っているが、日本で気軽に観られる作品ではないことがもったいないと感じた。

本作でも触れられていたラストの語りが非常に素晴らしい作品だったことに加え、昨年一部の劇場ではヒューストンの特集上映も行われていたようだ。今作を機に、配信等で観ることができないものだろうかと考えさせられた。

ヴェネチアで最高賞を受賞した作品としては少し薄味ではあるが、名優2人の演技は間違いなく賞に値するものだ。アルモドバルの作品は好き嫌いがかなり分かれるが、本作は個人的にはかなり当たりだったと言える。
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