バイオピックで実在の人物を演じる俳優の演技が形態模写にしか見えないときがある。レミ・マレック(フレディ・マーキュリー)やブラッドリー・クーパー(レナード・バーンスタイン)もそうだった。本作のティモシー・シャラメはディランの形態模写の中にシャラメ本人が溢れ出ている。大したスターだ。トム・クルーズの後のハリウッド・スターはシャラメしかいないのではないだろうか。本作のもう一人のスターはエル・ファニング。こちらは形態模写芝居はなく(おそらく)、ディランを支える喜び、不安、悲しみを体現して心を打つ。この人もスターだ。エドワード・ノートン(ピート・シーガー)とモニカ・バルバロ(ジョーン・バエズ)も上手いけどシャラメとファニングのスター性が抜きん出る。
なお、ニューポート・フォークフェスティバルで労働者グループが斧を振るいながら労働歌を歌うパフォーマンスが当時のフォーク運動らしい描写だと思っていたら、その後のノートンの行動を導く伏線だったとは気づかなかった。