起立

SELF AND OTHERSの起立のレビュー・感想・評価

SELF AND OTHERS(2000年製作の映画)
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やっと観られて嬉しいです。
つい最近、話すこと/話さないことについて考えていたので、気付きがありました。やはりものは言い過ぎるより、言わない方が美しいなと思います。
牛腸さんの写真は、じっとこちらを見つめているものばかりなんですが、不出来な証明写真というか、下手くそな集合写真というか、でもそこに秩序がないわけじゃなくて、最低限写真としての体裁を設えた、ぎりぎりの写真のように思います。
現に被写体の人の話では、当時はあまり写真を好きになれなかった、嫌だった、その理由を写真に映るのにいい顔だと思わなかったから、と話していました。でも牛腸さんはなんだろう、そういう、普通より「足りないところ」を採用しているような気がしました。
現に写真からも、どこか物足りないような、ひとすじの欠乏のあるような、ものものしい雰囲気がします。なにか夢中でやっていたり、暮らしの中でなにかをしていた最中に、突然知らない人に呼び止められて、そこに真っ直ぐ立ってくださいと言われ、渋々言うことを聞いて撮られた、というような写真に見えます。これがぎりぎりの秩序の正体で、被写体と撮影者の間に生まれる不信、あるいは信頼関係の足りなさのようなものが、実際にレンズが写す以上の距離を産んでいるように見えるのではないでしょうか。実際作中でお話を聞く限り、信頼関係がなかったなんてことはないので、むしろレンズを通してこれだけの、不均衡、不平、憂鬱な雰囲気を醸し出せる方が、すごいことのように思います。

また先日は牛腸さんのお誕生日だったそうです。それを踏まえての上映だったのでしょうか。だとすると少し嬉しいなと思いました。
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