雨丘もびり

敵の雨丘もびりのレビュー・感想・評価

(2025年製作の映画)
5.0
【にぎやかな未来】
観たあと、怖くて脳を使いたくなくなる。でも思考は止められないし過去を引っ張り出して未来に備えシミュレーションし続ける。この先確実に消耗故障して厭でもあの煉獄に引きずり込まれるかと思うと動悸動悸して狂いそう。てゆうかもう片足は妄想の世界を歩いているのかも。旅行の行き先を尋ねるとき、(もう訊いたかもしれないけど)と不安が滲むのを隠した長塚京三の芝居にゾゾゾ。
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原作既読。
筒井康隆と吉田大八の作品のおぞましさは世界観に触れるとこちらの視点まで浸食されてもう元には戻せないところ。ゆえに私も今回は文語っぽい書き方になってしまふ。人間は網膜に反射した光を受けないと見えないし舌に粒子が付着しないと味わえないし触覚が反応しないとさわれない。世界をありてあるままに認識できないロースペなのに二次情報をせっせと搔き集めてペタペタ繋げてデフォルメして盛って削って膨らませてあの手この手で"世界に生きている"ような気に浸りたいのに何のことはない頭蓋という真っ暗な屋内で孤独なまま死ぬだけの淋しい生物だ私たちは。他人と実際に面会してようが記憶を反芻してようが次に会った時をシミュレートしていようが何ら違いはない現象だからそのうち区別できなくなってしまうのではないかしらん。『ファーザー』を類似作に浮かべつつ本作は理性の延長で壊れてゆく老人の様子が描かれており余計に寒気がした。映画オリジナルのアウトロでは死の瞬間が厭な厭な厭ぁな映像技法で描かれもう恐怖で歯車(ギヤ)ぁと叫びたかった。吉田監督はハッピーエンドのつもりで制作したそうだし筒井康隆も「痴呆でなく妄想」の小説だと主張しているが私にはどちらも汲み取れない。年齢と共に味わいが深まる作品だと確信しているので折にふれて訪れたいようなもうごめんだと思うような観なければよかったと心底後悔しているような。「なんかむずかしーねー」などと言い放って町に消えたカップルに幸多かれ。茶の間でテレビ見ながらおならするくらいの労力で書かれた&撮られた感も醸し出されており誠におぞましい。
瀧内公美の主観的に美化された浮遊感がスゴい。黒沢あすかが地母神チックな神々しい畏れで輝いている。河合優美はいつもの感じ。
長塚京三の肩の薄さ、書斎のかんじ、浅い呼吸から大好きだったおじいちゃんを思い出してちょっと泣いた。たてる物音がいちいち切なく淋しい。こういうところを嗜める人々向けの対象年齢高めな傑作。