仕事をリタイアし、住み慣れた古家に暮らす善良な老紳士。2年前に伴侶を亡くし独り身ではあるけれど、日課の家事をこなし丁寧な暮らしを続ける日々が淡々と映し出される。ある日パソコンに「敵がくる」との不審なメールを発見する。そこから老人の身の周りが変わり始める。
謎めいたメールが届いて以降、起きていることが現実なのか妄想なのかは語られない。記憶の奥底にあるちょっとした後ろめたさ、後悔の念、抑圧していた欲望。こういった負の感情がカタチとなって老人の目の前に迫ってくる〜これは妄想なのか現実なのか?夢なら覚めれば抜け出せる。でも現実とは区別がつかないようなバーチャルな世界に取り込まれてしまった主人公は容易に戻ってこられない。たとえ現実の世界にいたとしても疑心暗鬼に苛まれ、また妄想の世界へ逆戻りしてしまう。
心の奥底に抱え封印している感情、その封印を解こうとやって来る「敵」。
物語の中では敵の正体を明かしていない。観客任せだ。この映画が衝撃的なのは妄想と現実が混濁した世界を主人公目線で描いているところだろう。
「敵」の襲来が真実なのかデマなのか?
飛躍しすぎかもしれないけれど、
この世の中、ファクトなのかフェイクなのか、もはや識別は困難になりつつあり、バーチャルな空間も極めてリアルに近づいている。何が真実で、どこまでが現実なのか?個人では認知しにくい時代になってきたなって。見極められるすべを僕らはどこに求めればいいのだろうか。主人公渡辺儀助が晩年見た世界となんだか似かよっているなって、ふと不安がよぎった。