『夢を持つことが難しくなった今の時代に、夢を持つこととは?映画』
石黒正数の人気漫画の映画化。監督は、『ベイビーわるきゅーれ』シリーズの阪元裕吾監督。
個人的に『ベイビーわるきゅーれ』は、男が好きな、非日常の殺し屋とゆる女子校生の掛け合わせみたいな臭みがどうしても受け入れきれなくて、何度か挑戦したが全部観れたことはない。しかし、今回はファンタジーな要素はなく、個人的に好きなモラトリアム系ということで鑑賞してみた。
あらすじは、
大学の女子寮で同じ部屋に住む後輩・入巣柚実と先輩・鯨井ルカ。ルカはインディーズバンド「ピートモス」のギター&ボーカルとして夢を追っているが、入巣は特に夢や目標のないまま、古本屋で何となくアルバイトする日々を過ごしている。2人は安い居酒屋で飲んだり、暇つぶしに古い海外ドラマを観たりと、緩く心地よい同居生活を送っていた。そんなある日、ルカに大手音楽レコード会社から声が掛かったことで、2人の日常は大きく変わりはじめる。という内容。
面白かった!!!!
この監督特有の、気になる臭みみたいなの(後述)は少しあるものの、全体としては非常に面白かった!!!
良かった点は、柚実とルカの作り出すなんでもない緩い空気が、愛しくなるようにゆっくりじっくり描かれる点。主にただただ部屋でダラダラする笑 百合とも取れるような密着感。どちらかがどちらかに膝枕されたり、小さい恋の話をウダウダしたり。
なんでもなくなんてないんだけど、なんでもない日常、関係って素敵だよね、と思わせてくれる。そのため、後からこれが壊れることに、人生や切なさを感じさせてくれる。ベイビーわるきゅーれでゆるいやりとりが良い!と言われる監督の手腕が非常に光っている。
テーマも今やるべき事に帰着してるのも好き!
夢や目標を持つということ、が良いとされてきた。しかし現在、SNSなどの台頭で、小さい頃から残酷にも、数字や才能が完全に可視化される形で見えるようになってしまった。自然と人と比べて、自分かどうかということがより見えるようになってしまった。才能の底、努力の底が。そんな現代に、夢や目標を持つとはどういうことか。それを問う作品になっていた。そこまで掘り下げてるからこそ、疾走したルカのことを終わってもずっと考えてしまう。
しかも映画では何ともあっさりと疾走して終わる。そこもいい。考えがまわる。
終わり方はあんなに綺麗に終わらなくても、と思うくらい対比で綺麗に終わる。恋人ではなく、なんという関係と呼ぶのか。余韻を残して終わる。素晴らしい。
そして、何よりこの映画を良くしてるのは、『ネムルバカ』という楽曲だ。
ネクライトーキーの朝日さんが楽曲を提供してるのだが、これが本当に上がる。朝日さんに楽曲をお願いしてるのは、人選さすがすぎる。
朝日さんは、ネクライトーキーの歌詞から類推するに、不甲斐ないどうしようもない自分を救う可能性があるのは、生きれるのは、音楽があるからだ、と、一縷の望みを賭けて音楽をやってるように思う。そんな魂の乗ってる歌詞や楽曲、最高に決まってる。感情が同じ方向だから合いすぎている。3回ほど劇場で流れるのだが、最後エンドロールで流れていたときは身体が踊っていた。歌詞は切なすぎるのに、体が踊る。音楽だ。最高の音楽体験でもあった。最高でした!!!
良い映画だからこそ、気になる点もあった。この監督の臭みのようなものが少し気になった。
ゆるい空気やゆるいボケ、話の進め方に、若干ご都合主義に取れてしまう場面が目立った。滑るの前提のボケや、会話が明らかに自然じゃない、などノイズがもったいない。
特に気になった点をあげてくと、まず、ナビのアプリ。さすがにウザイ。100歩譲ってあのアプリがあるとしても、目的がナビなのに、間違えちゃった!で別の場所に到着させるのはアプリとして成立してなさすぎて、メタで外から作為的に海(だっけ?)に連れてきたかったからに他ならなくなってしまう。アプリのボケをやりたいからというきもちだけで超えていいリアリティライン超えてる…。
でガソリンがちょうどなくなる(そもそも無くなる前に気づくだろ、)。柚実が小銭で奇跡的に迎えに来る。このなんの意味もない奇跡をわざと起こすのも気持ち悪すぎる。他が非常にリアルに描いてあるだけに、なんでそんな安いことしちゃうんだよ…とゲンナリしてしまう。
あと、空に向かって告白するあの男。あれだけ主人公2人が騒いでるのに全く気づかずに、その後気づいてアワアワする、は酷い。アワアワさせたいがためのご都合主義。この切ないリアルを主軸にするなら明らかに臭みだと思う。
あと細かいけど、疾走のシーン。
なんでルカが近づいてくるのに、ファンは歓喜して触ろうとかせずにザワザワしてたんだろうか。これは意図があるのかなんなのか。意図があったとしても、それ以外のリアリティラインが曖昧になってるので、どちらかわからなくなってる。惜しい。
そのくらいかな。
おおむねめちゃくちゃ面白かったです!!『ネムルバカ』を映画館で聞けてよかった!!!!