桃子

愛の調べの桃子のレビュー・感想・評価

愛の調べ(1947年製作の映画)
4.0
クララ・シューマンを主人公にした音楽映画である。夫のロベルト・シューマンやフランツ・リスト等、有名な音楽家が登場する。実を言うとヨハネス・ブラームス目当てでこの映画を鑑賞した。私がクラッシックの作曲家の中でもっとも好きなのがブラームスなのである。ブラームスの伝記映画は作られていない。モーツァルトもチャイコフスキーもベートーヴェンもショパンも映画の主人公になったことがあるのに、なぜかブラームスはない。この映画でも脇役である。脇役なのだけれど、重要な役どころで出番も多い。キッチンでエプロンをして料理をするシーンが出てきて、ブラームスがエプロン?!と大いに楽しませていただいた。
クララの父親が最低最悪だ。映画では冒頭に少し登場するのだが、検索したらとんでもないオヤジだということがわかった。娘をモーツアルトのように儲かるピアニストに育てて、娘の稼ぎで生きていこうと思っていたなんて言語道断!父親の妨害行為にも屈せずに無事にクララと結婚したシューマン。彼も情熱的な人だったのだろう。
冒頭、クララがピアノコンチェルトを演奏しているシーンにとても驚いた。クララを演じているのはキャサリン・ヘプバーンなのだけれど、本当に完璧にピアノを弾きこなしていた。吹き替えじゃないの?!と心底驚いて解説を読んだら、音の吹き替えをしているのがルービンシュタインだった。そうだとしても、キャサリンの指の動きは凄すぎる。撮影前にピアノの訓練をしたようだけれど、それでもたいしたものだと脱帽してしまった。たしかに当時はCG技術なんてなかったから、手や顏だけ入れ替えるなんていうことはできなかったのだろう。
キャサリン・ヘプバーンは映画史上ただひとり、アカデミー賞を4回受賞している俳優である。でも公の場に出るのを嫌い、自分の賞の受賞式には出なかったという。ふだんはスカートではなくパンツスーツを好み、気の強い女性だったとか。当時のハリウッドでは珍しいタイプだ。ハンサムウーマンというところだろうか(もしかしらたらこの言葉もすでに死語?)かっこいい女優だったことはわかるけれど、私はヘプバーンなら断然オードリーの方が好きだなあ。
この映画は伝記映画の常で、事実に基づいているけれどすべてが事実ではない、という内容である。もっとも、シューマン夫妻のことやブラームスのことを何から何まで知っているわけではないので、これで充分だった。名曲がたっぷりと堪能できるし、ピアノを弾く姿を見ているのは眼福だし、音楽映画としてよく出来ている。
全く知らなかったのだけれど、クララ・シューマンは子供を7人も生んでいる。ピアニストとして成功していて、夫であるロベルトを愛し続け、支えた。女性の鑑のような人である。ブラームスと親しかったので不倫の噂もあったようだけれど、事実ではないだろう。親しくしていても恋愛感情のない男友達というものはありえるから。夫に一途なクララをキャサリン・ヘプバーンが丁寧に演じているのが素晴らしい。
ひとつだけ、画像がよろしくないのが難点だった。昔の映画だから仕方ないけど…
桃子

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