桃子

エルヴィスの桃子のレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
4.0
「元祖スーパースター」

ビートルズやクイーンと同様、エルヴィスは私が10代、20代の時にはすでに活躍していたスーパースターだった。テレビやラジオで名前を聞くことはもちろん、ヒット曲はちゃんと覚えている。しかしながら、ビートルズやクイーン同様、私は彼の詳しい経歴も知らなかったし、特別に興味があったわけでもない。濃いお顔にド派手な衣装、そしてその歌声も正直好みではなかった。
有名なアーティストの伝記映画を見るたびに、もっとちゃんと曲を聴いておけばよかったと後悔する。せっかく同時代を生きていたのに。
159分という長い映画であるが、それほど長さを感じなかった。導入部分はこれでもかというくらいエモーショナルで、大いに気に入った。そしてスーパースターエルヴィスの「誕生」の瞬間のワクワクすることときたら!
この映画の魅力は、オースティン・バトラーに尽きる。と思っているのは私だけかもしれないが。「ジュディ」を見た時も思ったのだが、本人とはあまり似ていない俳優さんを抜擢している。ところが、映画本編を見ているうちに(すごい!やっぱり似ている!)と納得してしまう。演技がうまいからなのか。それとも他に何か理由があるのか。エルヴィスの魂が乗り移ったかのような迫力である。
一番胸が震えたのは、節目がちな目とセクシーな上目遣いである。バトラーの自前のまつ毛なのか、はたまた付けまつ毛なのか、びっしりと濃くてふさふさの長いまつ毛に視線が吸い寄せられてしまった。
もちろん、かの有名な腰振りダンスも破壊力満点である。今でこそ腰を振るなんていうのはどうと言うことはないが、当時はあっと驚くフシダラなパフォーマンスだったのだろう。その頃は、若者、特に若い女性が音楽を聴く習慣がまだあまりなかったのだという。その層を夢中にさせたエルヴィスは間違いなく先駆者であり、元祖である。
ハンクス演じるパーカー大佐の台詞に、「女性を騙してお金を巻き上げ、幸福な気分にさせて帰す」と言うような内容があった。私自身、まさにこういう体験をしているので身につまされる。今は大ファンになって追っかけをするような芸能人のことを「推し」と呼ぶが、まさに推しを生で見るために大枚をはたき、ライブ会場で熱狂し、幸せな気分になって帰宅するのである。
この映画は、パーカー大佐の視点で描かれている。自分が悪者ではないという言い訳をするという設定になっているので、エルヴィスの大ファンが見たら、物足りないと感じるのではないだろうか。違和感もあるかもしれない。
そこへいくと、私はエルヴィスのファンではないし、詳しいことも知らなかった。エルヴィスのヒット曲が登場するたびに字幕を必死で追いながら、(へえ、そういう内容の曲だったのね)と感心し、ステージパフォーマンスに目をぱちくりし、当時の若い女性が夢中になるのも無理はないなあと思った次第である。
女性だけではない。それ以降の音楽の世界に多大な影響を与えたのもエルヴィスである。ビートルズもエルヴィスのファンだったという(たぶん、レノン以外は)。若い頃の私は全く興味がなかったけれど、こうして映画を見た後は、彼の軌跡をたどりたくなる。「エルヴィス・オン・ステージ」でも見てみようか。新しい発見があるかもしれない。
桃子

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