『ハチ公物語』、『白い手』など名だたる文芸佳品で知られる神山征二郎監督が83歳にしてメガフォンをとった一本。近代日本音楽史にその名を深く刻む作曲家中山晋平の生涯が時代背景とともに真っ直ぐに描き出されている。
『ゴンドラの唄』、『シャボン玉』、『東京音頭』など今なお歌い継がれる名曲がどう世に送り出されたか。その経緯が奇を衒うことなく映像化されている。タイトルロールを担った中村橋之助の特筆すべき楷書の演技は見応え充分。本寸法の正統派伝記映画である———石川雅之(エッセイスト)
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中山晋平は、大正末期から昭和前期にかけて「日本のジャズ・エイジ」を牽引した大衆的な娯楽音楽、すなわち流行歌というものを生み出した偉大な始祖であった。「カチューシャの歌」「ゴンドラの唄」をレコードに吹き込んで全国的なスターとなった松井須磨子のエピソードを端緒にして、菊池寛の原作による映画「東京行進曲」のためにジャズソングの手法を取り入れたモダンなメロディをつけ、同名主題歌を大ヒットさせた。さらには、帝都・東京の誕生を祝う盆踊り大会のために書き下ろした「東京音頭」の絶妙で祝祭的な旋律は未だに大スタンダードナンバーとして歌い継がれている。この映画はメディア・ミックスの先駆者であり、偉大なるメロディメイカーであった中山晋平の生涯をあざやかに描き切っている———高崎俊夫(編集者・映画批評家)
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日本人の心の原点に久しぶりに出会えた。温かく懐かしく愛おしい、本来の日本映画で忘れてはいけない感情に溢れている———奥山和由(映画プロデューサー)
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劇中で思わず息を止めてしまうほどインパクトのあったシーンがある。それは次世代に残すという想いを元に書かれた「シャボン玉」を歌い上げた佐藤千代子役の真由子があるシーンで放った曲のオーラ。スクリーンを飛び出していたかのよう。これぞ音楽映画の見どころなのでは———柴田あずさ(シネマコンシェルジュ)
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映画『シンペイ』は、明治、大正、昭和の時代に生きた山中の生涯を音楽とともに綴った一大叙事詩。彼の抒情性を育んだ信州の麗しい自然、音楽の才能を開花させた東京、共に失われた風景が山中ゆかりの上田市、長野市のロケーションで見事に再現されているのが大きな見どころだ。もちろん名曲創作のエピソードも興味津々。 傑出した「音楽映画」の誕生を喜びたい———植草信和(元キネマ旬報編集長)
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誰もが耳にしたことがある美しいメロディを生んだ音楽家の人生とともに、同時代を生きたさまざまな女性たちの生き様が立ち上がっていく。献身、貪欲、高潔、洗練、情熱......この映画のなかで彼女たちもまた、誰もがひとつとして欠けてはいけない音符のように豊かな音色を奏でている———児玉美月(映画批評家)
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観終わったあと、登場する作曲家・作詞家・歌手などの経歴をつぎつぎ調べ、作中で流れた名曲を反芻した。同じことをする人は多いにちがいない。百年に及ぶ歳月を経て、何千万もの人の心と体に旋律が染みついているのは、芸術は大衆の支持を離れてはならないという信条を守り貫いた主人公の正しさの証だろう。佐藤千夜子って、名前に聞き覚えがあったので調べたら、はるか昔の「いちばん星」のヒロインでしたか。上にも書いたとおり、いろいろ調べたくなる映画でした———越前敏弥(翻訳家)
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劇作家、詩人、作詞家、歌手との出会いと葛藤。そして、大衆性を失わぬことと童謡や流行歌を芸術へ昇華させる苦闘。日本初の映画タイアップ曲東京行進曲の「いっそ小田急で逃げましょか」の詞が生まれた、時節との屈折した妥協の瞬間。その大ヒットした絶頂期に迎える新たな苦悩。演劇、レコード、楽譜、ラジオと、音楽をめぐるメディア変遷が新鮮に垣間見える。大正から昭和前期の激動する日本を舞台とする丁寧な映像が美しい———小柳淳(旅行作家)
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「スタンダード」という言葉がある。いつの世も誰もが知っている曲のことである。中山晋平はまさにその「スタンダード」を何曲も世に出した男だ。中山は自身が作った「ゴンドラの唄」が使われた黒澤明の「生きる」を映画館で見た直後に倒れ、亡くなったという。明治、大正、昭和という激動の時代を、音楽をその礎として生きた彼の中に、時代は一体どう映っていたのだろうか…———波多野健(テレビプロデューサー/演出家)
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海外からの影響を日本の心の旋律に合わせて昇華し、全方位的な大衆性に広げていく中山晋平の創造術。今日まで続く「新しい日本の歌」の源流を、平易に愉しく教えてくれる。こんな音楽映画を観たかった、と思う人は多いはずだ———森直人(映画評論家)
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誰もが口ずさんだことのあるあの曲この曲にのせて描かれる、中山晋平と彼を取り巻く芸術家たちの人生。彼らの喜びや哀しみが、歌に更なる奥行きを与え、観る人の心に新鮮に響いてきます。懐かしい日本の景色と共に、歌の偉大な力が改めて心を揺さぶる音楽映画です———生田みゆき(演出家)
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日本人なら誰もが馴染みのある楽曲が次々と流れ、その誕生秘話が丁寧に語られていく...
そして主演の中村橋之助さんの真っ直ぐな瞳に引き込まれ、僕はいつの間にかスクリーンに没入していた。 神山征二郎監督の語り口が見事で、熟練職人の美しい所作を見ているようで、心から感動いたしました———今関あきよし(映画監督)
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この映画を拝見して、いつの時代も作り手は人々の人生に歌や音楽が必要だと信じて作り続けているのだなと改めて感じました。 その思いは、表現する仕事をしている私も同じです。 そして、どのような時も生活の中には歌が流れていて、それぞれの人にとって大切な歌があるというのはとても素敵なことだと思いました。 見終わった後、心に暖かい光が灯るような映画です———珠城りょう(女優・歌手 元宝塚歌劇団 月組トップ)
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久しぶりに心に沁みる映画と出会った。何故、沁みたのか考えた。 実は"シンペイ"の歌たちが、私の中にいたのだ。 皆んなの中にもいるはずだ———鶴間政行(放送作家)
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受けて立つ、すごい音楽映画!
受けて立つ、という言葉があるが、一流の芸術家同士のコラボレーションはまさにそれと言っていい。作曲も作詞も単独で100点を追求するのではなく、作曲には作詞を生かす隙間を残しておき、作詞にも作曲を生かす隙間を残しておく。つまり、共にその隙間を生かしたときに歌が100点になるようにする。これが名人芸というもの。中山晋平、西條八十、野口雨情の天才トライアングルにはお互いにしのぎを削るすごさがある。この映画は芸術のそんな原点を教えてくれる素晴らしさがある———富澤一誠(音楽評論家)
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日本歌謡史は今年110年を迎えましたが、その始まりは中山晋平作曲・島村抱月作詞「カチューシャの唄」と言われております。この歌がわが国の「流行歌」第一号と言われ、音楽的にも「それまでの日本のはやり歌にはなかった近代的なメロディーである」と評価されています。そして、大衆が生み出した流行歌は、現代まで多様な時代とともに変化し、人の生活に寄り添って来ました。いまこの時代に改めて先人の功績を感じられる映画作品が生まれたことに、歌手として嬉しく感じております———五木ひろし(歌手)
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